交通事故による大動脈損傷(外傷性大動脈損傷・大動脈破裂):被害者が知るべき後遺障害認定と賠償請求の全知識

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被害者が知るべき緊急治療、後遺障害認定と損害賠償の全知識
「胸を強く打っただけ」ではない―― 事故直後には会話できても、大動脈の内膜損傷から仮性動脈瘤、解離、破裂へ進行することがある、生命とその後の仕事・生活を大きく左右する重大外傷
交通事故で胸部や腹部へ強い衝撃を受けた後、「骨折はなかった」「意識はある」「胸の痛みはあるが話せる」「レントゲンで大きな異常を指摘されなかった」として、重篤な血管損傷まで想定できる被害者は多くありません。
しかし、高速道路での衝突事故、正面衝突、側面衝突、車外放出、バイク事故、歩行者事故など、大きな減速力や圧迫力が身体に加わる事故では、大動脈が損傷することがあります。
大動脈は、心臓から送り出された血液を全身へ運ぶ最も太い動脈です。
この血管が交通事故によって傷つく「外傷性大動脈損傷」は、胸部外傷の中でも特に生命への危険が大きい傷病です。
ACC/AHAの大動脈疾患ガイドラインでは、鈍的大動脈損傷はまれではあるものの、外傷患者の死亡原因として極めて重要な損傷であり、高エネルギーの減速外傷によって生じると説明されています。胸部大動脈では、固定されている下行大動脈と比較的可動性のある大動脈弓との移行部にあたる「大動脈峡部」が代表的な損傷部位です。
大動脈損傷と聞くと、「大動脈が完全に破裂した状態」を想像するかもしれません。
しかし、実際には損傷の程度に幅があります。
大動脈の内側だけが裂ける内膜損傷から、血管壁の中に血液が入り込む壁内血腫、血管壁の一部が破綻して膨らむ仮性動脈瘤、そして血液が血管外へ流出する完全破裂まで存在します。
ACC/AHAで用いられる鈍的胸部大動脈損傷の分類では、Grade 1が内膜損傷、Grade 2が壁内血腫、Grade 3が仮性動脈瘤、Grade 4が自由破裂とされています。
事故直後に完全破裂すれば、短時間で大量出血を起こし生命に関わります。
一方、損傷した大動脈の周囲に血腫が形成され、一時的に出血が抑えられている場合には、病院到着時に血圧が保たれていることもあります。
そのため、「歩けた」「話せた」「意識があった」ことだけで大動脈損傷を否定することはできません。
さらに、大動脈損傷では胸部レントゲンだけで確実に診断できるわけではありません。
2025年のWSES-AAST胸部外傷ガイドラインでは、鈍的胸部大動脈損傷に対する胸部X線のスクリーニング能力には限界があり、縦隔拡大が確認されたのは確定例全体の27.7%、最重症のGrade 4でも47.4%だったとされています。循環動態が安定している胸部外傷では、造影CTやCT angiography(CTA)が重要です。
そして、大動脈損傷は救命治療が成功すれば終わりという傷病でもありません。
ステントグラフトを留置するTEVAR(胸部大動脈ステントグラフト内挿術)を受けた場合には、ステントグラフトの位置、エンドリーク、大動脈径などを長期的に画像で確認する必要があります。
保存的治療を受けた軽度損傷であっても、損傷が進行していないか経過観察が必要です。
また、残存する大動脈解離、仮性動脈瘤、血圧管理、運動制限、通院・画像検査、併存する脊髄・脳・腎臓・四肢等への障害によって、事故前と同じ生活や仕事へ戻れない場合があります。ACC/AHAも、TEVAR後や保存的治療後の外傷性大動脈損傷では長期画像フォローの重要性を示しています。
それにもかかわらず、保険会社から、
「ステント治療は成功しています」
「大動脈は破裂していません」
「仕事には復帰しています」
「現在のCTでは大きな変化がありません」
などとして、後遺障害や逸失利益を限定的に評価されることがあります。
しかし、大動脈損傷の賠償で重要なのは、単に「救命できたか」「手術が成功したか」ではありません。
事故によって大動脈にどの程度の損傷が生じ、どのような治療を受け、その後にどのような医学的制限・生活上の制限・職業上の制限が残っているかを客観的に示す必要があります。
今回は、交通事故による外傷性大動脈損傷について、生命上の危険、診断と治療、後遺障害等級、損害賠償、仕事への影響、保険会社との交渉、適正な補償を受けるために必要な証拠まで詳しく解説します。
交通事故による大動脈損傷の実態と深刻な危険性
大動脈は、心臓の左心室から出た血液を全身へ運ぶ重要な血管です。
胸部から腹部まで連続しており、
- ・上行大動脈
- ・大動脈弓
- ・下行胸部大動脈
- ・腹部大動脈
へと続きます。
交通事故では、車体が急激に停止する一方で、体内の臓器や血管には慣性が働きます。
この急激な減速や胸部圧迫によって、大動脈に強い剪断力や牽引力が加わり、血管壁が損傷することがあります。
特に鈍的胸部大動脈損傷では、大動脈峡部が代表的な損傷部位です。
交通事故で大動脈損傷が問題となる主な事故態様には、
- ・高速道路での高速衝突
- ・正面衝突
- ・側面からの強い衝突
- ・大型車との衝突
- ・車両の横転
- ・車外放出
- ・バイク事故
- ・歩行者が車両にはねられる事故
- ・身体が車体や構造物に挟まれる事故
などがあります。
外傷性大動脈損傷の主な状態
Grade 1 内膜損傷:
大動脈の最も内側にある内膜に裂傷や小さなフラップが生じている状態です。
重症度が低い場合には、血圧・心拍数の管理と画像検査による経過観察が選択されることがあります。
Grade 2 壁内血腫:
血管壁の内部に出血が生じている状態です。
画像所見や損傷部位、他の外傷、患者の全身状態等によって、保存的管理または治療介入が検討されます。
Grade 3 仮性動脈瘤:
大動脈壁が大きく損傷し、周囲組織によって辛うじて血液が保持され、血管の外側へ膨らみを形成している状態です。
破裂へ進行する危険があるため、通常は積極的な修復が検討されます。
Grade 4 自由破裂:
大動脈壁が完全に破綻し、血液が血管外へ流出している状態です。
大量出血と急速な循環不全を起こし得る極めて重篤な状態です。
ただし、治療方針は「Grade○だから必ず同じ治療」という単純なものではありません。
ACC/AHAガイドラインではGrade 1は一般に保存的管理と画像フォローが適切とされ、Grade 3・4は進行・破裂リスクが高く、緊急性の高い治療が推奨されています。
Grade 2については高リスク画像所見や患者の状態等に応じ、介入と保存的治療の双方が検討されます。2025年WSES-AASTガイドラインでも、より重症の外傷性胸部大動脈損傷ではTEVARを中心とする血管内治療が重要な位置を占めています。
事故後に見逃してはいけない症状
- ・突然の強い胸痛
- ・背中の強い痛み
- ・胸から背中へ抜けるような痛み
- ・息苦しさ
- ・冷汗
- ・顔面蒼白
- ・脈が速い
- ・血圧低下
- ・意識が遠のく
- ・強い倦怠感
- ・めまい
- ・ふらつき
- ・左右の脈の違い
- ・下肢の冷感やしびれ
- ・腹部や腰背部の強い痛み
- ・時間とともに状態が悪化する
などです。
ただし、大動脈損傷では典型的な症状がすべて揃うとは限りません。
胸骨骨折、肋骨骨折、肺挫傷、血胸、腹部臓器損傷、頭部外傷、骨盤骨折等を同時に負っている場合には、別の強い痛みや意識障害によって大動脈損傷の症状が分かりにくくなることもあります。
循環動態が安定している外傷患者では、造影CT・CTAによって大動脈の損傷部位、内膜損傷、壁内血腫、仮性動脈瘤、造影剤漏出、縦隔血腫等を確認することが重要です。WSES-AASTは、安定した胸部外傷患者に造影CTを強く推奨し、血管損傷の精密評価にはCTAを位置付けています。
一方、循環動態が不安定で大血管損傷が疑われる場合には、検査を繰り返すことより、救命・止血のための緊急処置が優先されることがあります。
治療には、
- ・血圧・心拍数を適切に管理して大動脈壁への負荷を抑える治療
- ・TEVAR
- ・人工血管置換等の開胸手術
- ・出血に対する輸血・循環管理
- ・併存する胸腹部外傷への治療
などがあります。
EASTは、修復が必要な鈍的胸部大動脈損傷では、適応となる患者について血管内治療を開胸手術より推奨しています。ACC/AHAも、解剖学的に適しており修復適応がある患者ではTEVARを推奨しています。
また、大動脈損傷は胸部だけとは限りません。
腹部大動脈の鈍的損傷も存在します。
ACC/AHAでは鈍的腹部大動脈損傷は鈍的外傷患者の1%未満とされるまれな損傷ですが、腹腔内臓器損傷等を伴うこともあり、損傷部位によっては腎臓、腸管、下肢等への血流障害も問題となります。
救命後に問題となり得るものには、
- ・残存する大動脈解離
- ・仮性動脈瘤
- ・大動脈径の拡大
- ・ステントグラフト周囲からの血流漏れ
- ・ステントグラフトの移動
- ・血管の狭窄
- ・分枝血管への血流障害
- ・血圧管理の継続
- ・慢性的な胸背部痛
- ・脊髄虚血に伴う神経障害
- ・脳血管障害
- ・腎機能障害
- ・下肢の血流障害
- ・長期的な画像検査の必要性
- ・身体活動や仕事への制限
などがあります。
ACC/AHAは、TEVAR後に異常がなければフォロー間隔を延ばせる可能性を示しつつも、ステントグラフトの移動やエンドリーク等を確認する画像監視が必要であるとしています。また保存的に管理した外傷性胸部大動脈損傷でも、経過観察中に損傷が進行する例が報告されています。
「大動脈が破裂しなかった」「ステントが入った」という結果だけでは、その後の障害を評価できません。
画像、循環機能、臓器血流、神経症状、治療後の管理、日常生活、仕事内容を継続して確認する必要があります。
大動脈損傷で認定される可能性のある後遺障害等級
交通事故による大動脈損傷では、「大動脈を損傷した」という診断名だけで自動的に一定の後遺障害等級が認定されるわけではありません。
治療後に残った胸腹部臓器の機能障害、循環器障害、神経障害等の程度が問題になります。
自賠責の後遺障害等級では、胸腹部臓器の障害について、介護を必要とする第1級・第2級から、労務への支障に応じた第3級、第5級、第7級、第9級、第11級、第13級までの枠組みがあります。
胸腹部臓器の障害として問題となる主な等級
| 等級 | 認定条件の概要 |
|---|---|
| 別表第一第1級 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 別表第一第2級 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
| 13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
ただし、大動脈損傷の後遺障害を考える際に特に注意したいのが「大動脈解離」です。
厚生労働省の労災における胸腹部臓器障害認定基準では、大動脈に偽腔開存型の解離を残すものを循環器障害として評価する考え方が示されています。
一方で、解離部分をすべて人工血管に置換した場合や、偽腔閉塞型で解離部の線維化が完成した場合については、その労災基準では大動脈自体の機能障害として等級に該当しない場合があるとの考え方も示されています。
ここは非常に重要です。
この厚生労働省の基準は労災保険の障害認定基準であり、自賠責へそのまま機械的に当てはめるものではありません。
交通事故では、自賠責の後遺障害等級表、医学的所見、治療内容、残存障害、実際の労務への支障などを総合して検討する必要があります。
また、大動脈損傷に伴って、
- ・脊髄障害
- ・脳血管障害
- ・腎機能障害
- ・下肢の神経障害
- ・心機能障害
などが残れば、大動脈自体の障害とは別の後遺障害評価が問題になることがあります。
後遺障害認定で重要となる主な検査・資料
- ・事故直後の造影CT
- ・CT angiography
- ・画像診断報告書
- ・大動脈損傷の部位
- ・損傷Grade
- ・縦隔血腫の有無
- ・大動脈周囲血腫
- ・仮性動脈瘤の有無
- ・解離の範囲
- ・偽腔の状態
- ・手術記録
- ・TEVAR手術記録
- ・ステントグラフトの種類・位置
- ・人工血管置換術記録
- ・輸血記録
- ・ICU記録
- ・事故後から症状固定までのCTA
- ・大動脈径の推移
- ・エンドリーク等の有無
- ・血圧管理の状況
- ・心エコー
- ・心機能検査
- ・腎機能検査
- ・神経学的所見
- ・下肢血流検査
- ・運動耐容能
- ・医師による運動・就労制限
- ・配置転換等の職場資料
「ステントグラフトを入れた」という事実だけではなく、事故前と比較して身体機能と職業能力に何が残ったのかを資料で示す必要があります。
後遺障害認定を受けるための絶対に守るべきポイント
大動脈損傷は生命に関わる傷病です。
高速衝突、正面衝突、大型車との事故等で胸部に強い衝撃を受け、胸痛・背部痛・呼吸苦・冷汗・血圧低下・意識変化等がある場合は、速やかな救急対応が必要です。
「話せるから大丈夫」「肋骨の痛みだろう」と自己判断すべきではありません。
救命治療が最優先です。
大動脈損傷では、事故直後の画像が極めて重要です。
可能な範囲で、
- ・救急搬送記録
- ・救急外来記録
- ・事故直後のバイタル
- ・胸部レントゲン
- ・造影CT
- ・CTA
- ・画像診断報告書
- ・輸血記録
- ・ICU記録
- ・手術記録
- ・麻酔記録
等を確保してください。
交通事故後の大動脈損傷では、胸部レントゲンだけでは十分でない場合があります。EASTとWSES-AASTはいずれも、疑われる鈍的胸部大動脈損傷において造影CT・CTAを重要な診断手段としています。
「大動脈損傷」という病名だけでは不十分です。
診療録や画像資料から、
- ・胸部か腹部か
- ・上行大動脈か
- ・大動脈弓か
- ・峡部か
- ・下行大動脈か
- ・内膜損傷か
- ・壁内血腫か
- ・仮性動脈瘤か
- ・破裂か
- ・分枝血管への影響があるか
を整理します。
損傷Gradeは治療方針だけでなく、事故直後の重症度を後から説明するうえでも重要な資料になります。
ステントグラフトを留置した後、「手術は成功した」と言われて通院を自己判断で終了することは避けるべきです。
確認すべき事項には、
- ・ステントグラフトの位置
- ・エンドリーク
- ・大動脈径
- ・仮性動脈瘤
- ・残存解離
- ・血栓
- ・分枝血管への影響
などがあります。
ACC/AHAは、外傷性大動脈損傷の治療後についても長期的な画像サーベイランスを重視しています。
大動脈損傷を起こすほど強い交通事故では、他の重大外傷を伴っていることがあります。
例えば、
- ・血胸
- ・肺挫傷
- ・多発肋骨骨折
- ・心臓損傷
- ・頭部外傷
- ・脊髄損傷
- ・腎損傷
- ・腹部臓器損傷
- ・骨盤骨折
- ・末梢神経障害
などです。
大動脈が救命上最も重大だったからといって、他の傷病が後遺障害申請から抜けてよいわけではありません。
事故によって生じたすべての障害を整理してください。
逸失利益では、「大動脈を損傷した」という病名だけではなく、事故後に仕事がどのように変わったかが重要になります。
例えば、
- ・重量物を持つ作業から外された
- ・強い力を使う作業が制限された
- ・高所作業ができなくなった
- ・長時間の現場作業ができない
- ・夜勤がなくなった
- ・長距離運転ができない
- ・緊急対応から外された
- ・出張が制限された
- ・配置転換された
- ・残業ができなくなった
- ・勤務時間が短縮された
- ・各種手当が減少した
- ・昇進・昇格に影響した
- ・退職または転職を余儀なくされた
といった事情を具体化します。
会社員の場合は、
- ・休業損害証明書
- ・源泉徴収票
- ・給与明細
- ・勤務表
- ・事故前後の仕事内容
- ・配置転換通知
- ・産業医面談記録
- ・会社の安全規程
- ・上司の陳述書
等が重要です。
特に建設、運送、製造、消防、警備、港湾、設備保全など身体的負荷や安全リスクの高い仕事では、「会社に復職しているか」だけではなく、事故前と同じ仕事へ本当に戻れているかを確認する必要があります。
退院日やTEVAR実施日が、そのまま症状固定日になるわけではありません。
大動脈の画像所見、ステントグラフト、残存解離、血圧、併存障害、運動耐容能等について治療・経過観察を続け、医学的状態が安定した段階で症状固定を検討します。
特に保存的に管理された外傷性大動脈損傷では、経過観察画像で進行がないことを確認することが重要です。ACC/AHAが引用する報告でも、非手術管理された鈍的大動脈損傷の一部で画像上の進行が確認されています。
後遺障害診断書を作成してもらう前には、
- ・大動脈損傷の部位・Grade
- ・残存解離
- ・仮性動脈瘤
- ・ステントグラフト
- ・血圧管理
- ・循環器症状
- ・神経障害
- ・腎機能
- ・下肢血流
- ・併存損傷
- ・就労制限
が漏れなく評価されているか確認する必要があります。
請求できる損害賠償の種類と高額化のポイント
交通事故による大動脈損傷は、救急搬送、ICU管理、輸血、手術、TEVAR、長期入院、リハビリ、定期的な画像検査等によって損害が高額になることがあります。
積極損害
- ・救急搬送費
- ・診察費
- ・造影CT、CTA等の検査費
- ・ICU費用
- ・輸血費用
- ・手術費
- ・TEVAR費用
- ・人工血管置換術等の費用
- ・入院費
- ・投薬費
- ・リハビリ費
- ・通院交通費
- ・転院費
- ・入院雑費
- ・診断書・画像データ等の文書費
- ・医師が必要と認めた付添看護費
- ・将来必要となる診察・画像検査・治療費
- ・重度障害の場合の介護費
- ・必要性が認められる場合の住宅改修費等
消極損害
休業損害:
事故による入院、手術、通院、リハビリ、就労制限等によって働けなかった期間の収入減少
逸失利益:
後遺障害によって将来の労働能力が低下したことによる将来収入の減少
慰謝料
入通院慰謝料:
事故による傷害、入院、手術、通院等による精神的・肉体的苦痛
後遺障害慰謝料:
後遺障害が将来にわたって残る精神的・肉体的苦痛
自賠責保険では、傷害による損害の支払限度額は被害者1人につき120万円です。
後遺障害では、常時介護を要する第1級は4,000万円、随時介護を要する第2級は3,000万円、その他は第1級3,000万円から第14級75万円まで等級別の限度額が設定されています。
大動脈損傷のような重症外傷では、治療費だけで自賠責の傷害限度額120万円を大きく超えることがあります。
その場合は、任意保険会社や加害者に対する請求を含め、実際に生じた損害全体を積み上げて検討する必要があります。
また、人身損害の算定には自賠責基準、任意保険基準、裁判基準と呼ばれる基準があります。日弁連交通事故相談センターも、一般的には自賠責基準が最も低額で、裁判基準が最も高額であると説明しています。
具体的な賠償の検討例
ケース1:
高速道路で追突事故に遭い、CTAで小さな内膜損傷が確認されたものの、厳重な経過観察によって消失し、最終的に循環器機能や仕事への制限が残らなかった場合。
主な損害は、
- ・治療費
- ・検査費
- ・休業損害
- ・通院交通費
- ・入通院慰謝料
等が中心となります。
大動脈損傷という重い診断名がついても、最終的に後遺障害が残らなければ、必ずしも後遺障害等級が認定されるわけではありません。
ケース2:
正面衝突で胸部大動脈を損傷し、仮性動脈瘤に対してTEVARを実施。
救命には成功したものの、定期的なCTAが必要となり、医師から重い身体作業を制限され、事故前の現場作業から内勤へ配置転換された場合。
この場合には、
- ・後遺障害慰謝料
- ・逸失利益
- ・将来必要となる検査・治療費
- ・配置転換による現実の減収
等が問題となる可能性があります。
ケース3:
重度の大動脈損傷によって大血管手術を受け、脊髄障害や臓器血流障害等を併発し、日常生活にも介助が必要となった場合。
大動脈自体の胸腹部臓器障害だけでなく、
- ・脊髄障害
- ・神経障害
- ・腎機能障害
- ・介護費
- ・将来治療費
- ・逸失利益
- ・後遺障害慰謝料
- ・住宅改修費等
を個別に検討する必要があります。
同じ「大動脈損傷」でも、小さな内膜損傷が治癒したケースと、人工血管置換やTEVARを必要とし重大な障害が残ったケースでは、損害内容は大きく異なります。
病名だけで賠償額を判断すべきではありません。
保険会社との交渉で絶対に避けるべき失敗
ステントグラフトを留置し、大動脈破裂を防げたことは非常に重要です。
しかし、それだけで事故前と同じ状態に戻ったとは限りません。
残存解離、ステントグラフトの状態、画像フォロー、血圧管理、仕事への制限等を確認してください。
画像が安定していても、事故後に身体活動や仕事内容が制限されている場合があります。
画像だけでなく、医学的な就労制限と現実の職務への影響を確認する必要があります。
鈍的胸部大動脈損傷は、胸部X線だけで十分に評価できないことがあります。
事故直後の造影CT・CTAとその画像報告書を確保してください。
「大動脈損傷で手術を受けた」という説明だけでは、事故直後の重症度を十分に伝えられません。
損傷部位、Grade、仮性動脈瘤、破裂の有無、TEVAR・人工血管置換の内容等を確認します。
外傷性大動脈損傷では、治療後にも画像による経過観察が必要となる場合があります。
通院を中断すると医学的な安全性だけでなく、損傷の経過を後から証明する資料も途切れます。
抽象的な説明ではなく、
「20kg以上の部品を持てなくなった」
「夜勤から外れた」
「現場勤務から内勤になった」
「残業時間が月40時間から5時間になった」
「現場手当がなくなり年収が20%低下した」
など、事故前後を数字で比較します。
重度交通事故では、脊髄、脳、肺、心臓、腎臓、骨格等に複数の障害が残ることがあります。
一つの傷病だけに注目して、本来評価されるべき後遺障害を見落とさないようにしてください。
保険会社から提示された金額が、裁判基準を踏まえた適正額であるとは限りません。
日弁連交通事故相談センターも、保険会社から提示された賠償額に疑問がある場合には、専門家への相談を案内しています。
一度示談を成立させると、その後に追加の損害が判明しても追加請求が困難になる場合があります。
示談書へ署名する前に内容を十分に確認することが重要です。
弁護士に依頼すべきタイミングと圧倒的なメリット
大動脈損傷は、救命医療、血管外科治療、長期的な画像フォロー、後遺障害、職業制限、損害賠償が複雑に関係する傷病です。
事故直後は治療と救命を最優先にしてください。
そのうえで状態が落ち着いてきた段階から、本人または家族が事故資料・医療資料・職場資料を整理しておくことが重要です。
- 事故直後の画像・救急記録を整理できる
- CTAや手術記録等の必要資料を確認できる
- 大動脈損傷の部位・Gradeを整理できる
- TEVAR・人工血管置換後の経過資料を確認できる
- 後遺障害診断書の記載内容を確認できる
- 大動脈以外の併存障害の申請漏れを防ぎやすくなる
- 医師による就労制限と実際の仕事内容を結び付けられる
- 配置転換・手当減少・収入減を逸失利益へ反映できるよう資料を整理できる
- 休業損害を確認できる
- 将来必要となる治療・検査費用を検討できる
- 保険会社から提示された示談額を裁判基準等と比較できる
- 被害者と家族が治療や生活再建に集中しやすくなる
- 外傷性大動脈損傷と診断された
- 仮性動脈瘤が確認された
- 大動脈解離が残っている
- 大動脈破裂で緊急手術を受けた
- TEVARを受けた
- 人工血管置換術を受けた
- ICUで長期間治療を受けた
- 脊髄、脳、腎臓等の合併症が残った
- 長期的な画像検査が必要と言われている
- 事故前の仕事へ戻れない
- 医師から身体活動を制限された
- 配置転換された
- 夜勤、残業、現場作業等から外された
- 収入が減少した
- 保険会社から治療費打切りを提案された
- 症状固定を求められた
- 後遺障害診断書を作成してもらう前
- 後遺障害が非該当となった
- 想定より低い等級となった
- 保険会社から示談金を提示された
特に重症大動脈損傷では、「救命できたので十分」という視点と「事故後の人生に必要な補償」という視点を分けて考える必要があります。
まとめ:交通事故による大動脈損傷の被害者が絶対に知っておくべきこと
交通事故による大動脈損傷は、胸部や腹部に強い衝撃を受けた際に発生する、極めて重大な血管損傷です。
内膜損傷のような比較的軽度のものから、壁内血腫、仮性動脈瘤、完全破裂まで重症度には大きな幅があります。
事故直後に意識があり、会話ができていても、大動脈損傷を否定できるわけではありません。
救命後もTEVAR、人工血管、残存解離、画像フォロー、併存障害、運動制限、配置転換、減収等が長期的な問題となることがあります。
- 高速衝突や正面衝突後の強い胸痛・背部痛を軽視しない
- 冷汗、顔面蒼白、血圧低下、意識変化があれば直ちに救急対応する
- 「事故後に歩けた」ことだけで重症血管損傷を否定しない
- 胸部レントゲンだけで大動脈損傷が除外されたと考えない
- 事故直後の造影CT・CTAを保存する
- 画像診断報告書を確保する
- 大動脈損傷の部位を確認する
- Grade 1~4のどの程度の損傷だったのか確認する
- 仮性動脈瘤や残存解離の有無を確認する
- 手術記録・TEVAR記録を確保する
- ステントグラフトの情報を保存する
- ICU・輸血等の救命治療記録を保存する
- 治療後のCTAを継続する
- エンドリーク等の治療後合併症を確認する
- 大動脈だけでなく脳・脊髄・肺・心臓・腎臓等の併存障害を確認する
- 血圧や循環器症状の経過を記録する
- 医師から受けた運動・就労制限を記録する
- 事故前と事故後の仕事内容を比較する
- 配置転換を会社資料で証明する
- 夜勤・残業・現場手当等の減少を給与明細で確認する
- 「会社に復帰した=労働能力に影響なし」と考えない
- 退院や手術成功だけを理由に症状固定を急がない
- 長期的な画像フォロー中に示談を急がない
- 後遺障害診断書作成前に必要資料が揃っているか確認する
- 大動脈自体だけでなく、併存する後遺障害を漏れなく検討する
- 保険会社の提示額だけで最終的な賠償額を判断しない
- 重症例では早い段階から交通事故に精通した弁護士へ相談する
大動脈損傷は、「破裂せず助かった」「ステント治療が成功した」というだけでは、その後の問題まで解決したことにはなりません。
事故後にどのような大動脈病変が残っているのか、どのような定期検査が必要なのか、事故前と同じ身体活動ができるのか、以前と同じ仕事へ安全に戻れるのかを一つずつ確認する必要があります。
特にTEVARや人工血管置換、大動脈解離、仮性動脈瘤、脊髄・腎臓等の合併症を伴うケースでは、救急搬送時から症状固定までの医学資料を一貫して確保することが重要です。
適正な後遺障害認定と損害賠償を受けるためには、「大動脈を損傷した」という傷病名だけではなく、事故によって身体、生活、仕事、収入がどのように変化したのかを客観的な資料によって示す必要があります。
保険会社から「手術は成功しています」「CTでは安定しています」「仕事には復帰しています」と説明されたとしても、それだけで後遺障害や逸失利益が否定されるわけではありません。
医学的な評価と交通事故損害賠償の法的評価の双方から、事故後の生活再建に必要な補償を検討することが重要です。
