下顎骨粉砕骨折による言語機能障害と歯牙欠損で3,400万円の賠償獲得事案 - 名古屋の交通事故弁護士

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下顎骨粉砕骨折による言語機能障害と歯牙欠損で、通訳者の職業特性を考慮して3,400万円の賠償を獲得した事案

事故の概要と被害状況

被害者情報

性別

女性

年齢

40代

職業

フリーランスの会議通訳者(英語同時通訳・全国通訳案内士資格・TOEIC990点・通訳エージェント3社登録)

後遺障害等級

10級3号、12級3号 併合9級

受傷部位

下顎骨粉砕骨折(オトガイ部・左下顎角部の2か所骨折)、開口障害、咬合不全、言語機能障害(歯舌音の構音障害)、歯牙欠損7歯(歯科補綴)、左下唇・オトガイ部の知覚鈍麻(オトガイ神経損傷)

事故の態様

名古屋市昭和区の交差点において、自転車で直進中の被害者が、一時停止を無視して進入してきた加害車両に側面から衝突され、顔面から路面に転倒

賠償金額の比較

項目受任前受任後
保険会社からの提示・裁判1,100万円
休業損害180万円410万円
入通院慰謝料130万円260万円
逸失利益450万円1,850万円
後遺障害慰謝料180万円690万円
医療費等を含む賠償総額1,100万円3,400万円

交通事故の状況

名古屋市昭和区の住宅街の交差点において、自転車で直進していた被害者の側方から、一時停止規制を無視した加害車両が減速することなく進入し、被害者の自転車側面に衝突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。被害者は自転車もろとも前方に投げ出され、下顎部から路面に転落しました。

救急搬送先での顔面CT検査で、下顎骨のオトガイ部(正中部)と左下顎角部の2か所に及ぶ粉砕骨折と、下顎前歯部を中心とする7歯の歯牙破折・脱落が確認されました。緊急で下顎骨観血的整復固定術(チタンプレート固定)が施行され、術後約6週間の顎間固定(上下の顎をゴムで固定し開口を制限する処置)を経て、約10か月間の開口訓練・構音リハビリテーションと歯科補綴治療(ブリッジ・インプラント)を継続しました。

しかし、開口域の制限(最大開口量32mm)、咬合の不全、舌尖を歯の裏側に当てて発音する歯舌音(タ行・ダ行・ナ行・ラ行・サ行)の構音障害、オトガイ神経損傷による左下唇の知覚鈍麻が残存した状態で症状固定となりました。

相談内容

事故から約1年が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者はフリーランスの会議通訳者として、国際会議・企業間商談・行政の国際イベント等における英日同時通訳・逐次通訳業務に従事し、通訳エージェント3社に登録して年間約180日稼働していました。通訳業務では、長時間にわたり明瞭かつ高速な発話を維持する構音能力が業務の絶対条件であり、特に同時通訳では1分間に300音節を超える高速発話が求められます。

事故後、歯舌音の構音が不明瞭となり、同時通訳中に聞き手から「聞き取れない」との指摘を受けることが頻発し、長時間の発話で顎関節部の疼痛と疲労が増悪し、90分を超えるブースでの連続業務が不可能となりました。エージェントからの同時通訳案件の依頼は事故前の3分の1以下に激減し、単価の低い翻訳業務への転換を余儀なくされ、事業収入は事故前と比較して約40%減少しました。

しかし、保険会社の提示では、言語機能障害が「日常会話は可能」として後遺障害評価から除外され、歯牙障害の12級3号のみを前提とした低額な算定であり、通訳者という職業への影響が全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。

成果の概要

まず、口腔外科専門医および言語聴覚士の協力を得て、言語機能の精密評価を実施しました。標準的な語音発語明瞭度検査により、口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音の4種の語音のうち、歯舌音について発語明瞭度が著しく低下し「1種の語音を発することができない」状態に該当することを客観的に記録し、10級3号「咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの」の認定を受けました。

また、7歯に対する歯科補綴の事実を歯科治療記録で立証して12級3号の認定を受け、併合9級としました。咀嚼面についても、最大開口量32mm(正常40mm以上)と咬合接触面積の減少をデンタルプレスケール検査で記録し、固形物の咀嚼制限を裏付ける資料として提出しました。

その上で、会議通訳者という職業は、明瞭・高速な構音能力そのものが商品価値であり、わずかな構音障害でも業務の根幹が崩壊することを、通訳エージェント3社の担当者の陳述書、事故前後の受注案件一覧・稼働日数記録・報酬支払調書、国際会議主催者からのクレーム記録により詳細に立証しました。

確定申告書により事故前の事業収入が年間約620万円であったことを立証し、同時通訳案件の喪失と収入の約40%減少を根拠に、併合9級の通常の労働能力喪失率(35%)を上回る45%の喪失率を主張しました。さらに、インプラント・ブリッジの耐用年数(10〜15年)を踏まえた将来の補綴再治療費用約320万円を将来治療費として積算しました。

言語機能障害と通訳者という職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約3.1倍の3,400万円の賠償を獲得しました。

成果のポイント

  • ・下顎骨骨折後の言語機能障害は、「日常会話ができるから障害なし」と評価されがちですが、語音発語明瞭度検査により口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音の4種の語音のうち1種の発音障害を客観的に記録することで、10級3号「言語の機能に障害を残すもの」の認定を獲得することができます。
  • ・歯牙障害(歯科補綴)は補綴歯数により14級2号から10級4号まで段階的に等級が定められており、破折歯・脱落歯・支台歯を漏れなくカウントして歯科治療記録で立証し、言語機能障害との併合により等級を繰り上げることができます。
  • ・通訳者・アナウンサー・声優・語学講師・コールセンター管理者など、明瞭な構音能力が業務の中核をなす職業の場合、軽度の構音障害でも業務継続を直接困難にするものであり、取引先の陳述書・受注記録の推移・収入減少の証拠により、通常の等級基準を上回る労働能力喪失率を認めさせることができます。
  • ・自転車対自動車の出会い頭事故では、被害者が前方に投げ出され顔面から路面に転落する受傷メカニズムを、事故状況・救急搬送記録・顔面CT所見と関連付けて立証することで、下顎骨粉砕骨折と事故との因果関係を確実に証明できます。
  • ・インプラント・ブリッジ等の歯科補綴物には耐用年数があり、専門医の意見書により生涯にわたる再補綴の回数と費用を積算することで、将来の歯科治療費を適正に補償させることができます。
  • ・保険会社は顎骨骨折を「プレートで固定すれば治る怪我」として軽視することがありますが、開口域測定・咬合検査・語音発語明瞭度検査・オトガイ神経の知覚検査を組み合わせて多角的に立証することで、適正な等級認定と労働能力喪失率を獲得することが可能です。

担当弁護士 石田大輔