事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 男性 | |
| 年齢 | 30代 | |
| 職業 | IT企業勤務のシステムエンジニア(基本情報技術者・応用情報技術者・データベーススペシャリスト資格所持) | |
| 後遺障害等級 | 9級10号 | |
| 受傷部位 | 外傷性くも膜下出血、左前頭葉脳挫傷、軽度高次脳機能障害(注意障害・遂行機能障害・易疲労性・記憶障害) | |
| 事故の態様 | 名古屋市緑区の幹線道路において、自転車で通勤中の被害者が、左方向から右折してきた加害車両に巻き込まれ、頭部を路面に強打 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 1,200万円 | - |
| 休業損害 | 280万円 | 540万円 |
| 入通院慰謝料 | 180万円 | 320万円 |
| 逸失利益 | 580万円 | 2,650万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 250万円 | 690万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 1,200万円 | 4,500万円 |
交通事故の状況
名古屋市緑区の幹線道路において、自転車で通勤途中の被害者が直進していたところ、対向車線から右折進入してきた加害車両に巻き込まれる形で衝突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。被害者は自転車もろとも路面に投げ出され、ヘルメットを着用していたものの左前頭部を強打しました。
救急搬送先での頭部CT検査で外傷性くも膜下出血と左前頭葉の脳挫傷が確認され、頭部MRI検査では微細な脳挫傷巣と微小出血(マイクロブリード)が複数箇所に確認されました。
約3週間の入院後、約8か月間の通院リハビリ(神経心理学的リハビリテーション)を継続しましたが、注意の持続が困難・複数業務の同時処理が困難・新規情報の記憶定着が困難・午後になると著しい疲労で業務継続が困難という症状が残存し、症状固定となりました。
相談内容
事故から約11か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者はIT企業に勤務するシステムエンジニアとして、金融機関向け基幹システムの設計・開発・運用保守業務に従事し、複数のプロジェクトを並行して担当していました。日常業務では、複雑なシステム要件定義書の読解、データベース設計、プログラムコードの記述・レビュー、不具合発生時の論理的な原因究明、複数の関係者(顧客・設計者・プログラム・テスター)との並行コミュニケーションなど、高度な集中力・遂行機能・記憶力・マルチタスク能力が不可欠でした。
事故後の業務復帰後、コードレビューでの見落としが頻発し、要件定義書を読んでも内容が頭に入らず、午後3時以降は強い疲労感で業務に集中できず、過去に何度も実装した処理パターンが思い出せないなど、エンジニアとしての中核能力の低下が顕著となりました。プロジェクトリーダーから外され、上流工程(要件定義・基本設計)から下流工程(単純な保守業務)への配置転換が行われ、年収も約20%減少しました。
しかし、保険会社の提示では、頭部画像所見が「比較的軽度」であることを理由に高次脳機能障害が否定され、後遺障害等級も14級9号にとどめられたため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、脳神経外科専門医および高次脳機能障害に精通したリハビリテーション科専門医の協力を得て、頭部MRI検査の再評価を実施しました。SWI(磁化率強調画像)撮影により、初診時CTでは描出されなかった左前頭葉および両側前頭葉白質の微小出血(マイクロブリード)を新たに描出し、びまん性軸索損傷(DAI)の存在を客観的に立証しました。
さらに、神経心理学的検査として、WAIS-IV(成人知能検査)、WMS-R(ウェクスラー記憶検査)、TMT(注意機能検査)、BADS(遂行機能検査)、PASAT(注意配分検査)を実施し、注意機能・遂行機能・記憶機能・処理速度の各項目で同年代健常者の平均から1.5〜2標準偏差下回る成績を客観的に記録しました。
これらの神経画像所見と神経心理学的検査結果に加え、勤務先の上司・同僚・部下から事故前後の業務遂行能力の変化に関する詳細な陳述書を取得し、家族からは日常生活における変化(短気になった・段取りができなくなった・約束を忘れる)を記録した日常生活状況報告書を提出しました。これらを総合的に立証することで、9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」の認定を受けることに成功しました。
逸失利益については、システムエンジニアとして年収約620万円を得ていたことを源泉徴収票で立証し、9級の労働能力喪失率35%・就労可能年数34年として算定しました。さらに、症状固定後の認知機能維持のための継続的な神経心理学的リハビリテーション費用として約280万円を将来治療費として算定しました。
高次脳機能障害の見落としを防ぎ、システムエンジニアという職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約3.8倍の4,500万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・外傷性くも膜下出血や脳挫傷の事案では、初診時の頭部CT所見が「軽度」と評価されても、後日のMRI検査(特にSWI撮影)により微小出血やびまん性軸索損傷が明らかになることがあり、神経画像の再評価を専門医に依頼することが等級認定の決定的な根拠となります。
- ・軽度高次脳機能障害は、外見上は健常者と変わらないため見落とされやすく、保険会社から否定されやすい後遺障害ですが、神経心理学的検査(WAIS-IV・WMS-R・TMT・BADS等)の客観的データと神経画像所見を組み合わせることで、9級10号の認定を獲得することが可能です。
- ・システムエンジニア・プログラマ・研究職・会計士・弁護士など、高度な認知機能(注意・遂行機能・記憶・マルチタスク)が業務の中核をなす職業の場合、軽度の高次脳機能障害でも業務遂行能力に深刻な影響を与えるため、上司・同僚・部下からの陳述書により事故前後の業務能力の変化を具体的に立証することが、適正な労働能力喪失率を獲得する鍵となります。
- ・自転車対自動車の右折巻き込み事故では、被害者の頭部が路面に強打されるメカニズムを事故現場の状況・搬送時の意識レベル・救急搬送記録から詳細に立証し、頭部外傷と高次脳機能障害との因果関係を確実に証明する必要があります。
- ・高次脳機能障害の認定では、家族による日常生活状況報告書の作成が極めて重要であり、事故前後の性格・行動・生活能力の変化を具体的なエピソードとともに記録することで、医学的所見だけでは把握しきれない生活上の障害を立証できます。
- ・「画像所見が軽度だから後遺障害はない」という保険会社の主張に対しては、SWI撮影や神経心理学的検査の専門的データで反論することが不可欠であり、脳神経外科専門医・リハビリテーション科専門医・神経心理士との連携が適正な補償を受けるための鍵となります。
担当弁護士 石田大輔
