事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 男性 | |
| 年齢 | 40代 | |
| 職業 | 建設会社勤務の移動式クレーンオペレーター(移動式クレーン運転士免許・玉掛け技能講習修了・大型自動車第一種運転免許所持) | |
| 後遺障害等級 | 10級2号 | |
| 受傷部位 | 右眼窩底骨折(眼窩吹き抜け骨折)、右下直筋の絞扼・運動制限、正面視および下方視での複視、右眼球運動障害、右頬部・上口唇の知覚鈍麻(眼窩下神経損傷) | |
| 事故の態様 | 名古屋市港区の交差点において、青信号で直進中の被害者運転車両に、赤信号を無視して進入してきた加害車両が側面から衝突 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 900万円 | ― |
| 休業損害 | 150万円 | 330万円 |
| 入通院慰謝料 | 110万円 | 250万円 |
| 逸失利益 | 350万円 | 1,750万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 190万円 | 550万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 900万円 | 3,100万円 |
交通事故の状況
名古屋市港区の信号交差点において、青信号に従い直進していた被害者運転の乗用車に、赤信号を無視して交差道路から進入してきた加害車両が運転席側面に衝突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。側面衝突の強い衝撃で被害者の頭部は右方向に振られ、右眼部をドアピラーに強打しました。
救急搬送先での顔面CT検査で、右眼窩底(眼球を支える眼窩の床部分)の骨折と、骨折部への右下直筋(眼球を下方に動かす筋肉)の絞扼(はまり込み)が確認され、眼球を動かすと強い痛みと吐き気を伴う状態でした。受傷から5日後に眼窩底骨折整復術(チタンメッシュプレートによる眼窩底再建)が施行され、約2週間の入院後、約9か月間の通院(眼科での眼球運動訓練・プリズム眼鏡による矯正試行)を継続しましたが、正面視および下方視での複視(物が二重に見える症状)と右眼球の下転制限が残存した状態で症状固定となりました。
相談内容
事故から約11か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は建設会社に勤務する移動式クレーンオペレーターとして、大型建築現場での資材の吊り上げ・据付け作業に従事していました。クレーン操作業務では、地上の玉掛け作業員と吊り荷を上方の運転席から見下ろす下方視での正確な距離感・立体感の把握が業務の絶対条件であり、わずかな視覚のずれが重大な労働災害に直結します。
事故後、正面視と下方視で物が上下二重に見える複視により、吊り荷の位置と高さの正確な把握が不可能となり、クレーン operation 中にめまいと眼精疲労が頻発し、移動式クレーン運転業務からの完全な離脱を余儀なくされました。また、移動式クレーン運転士免許に必要な深視力(三桿法による遠近感の検査)の維持も困難となりました。会社からは地上の資材管理業務への配置転換が命じられ、クレーン手当・現場手当の喪失により年収は約30%減少しました。
保険会社の提示では、複視について「片眼を閉じれば作業可能」として13級相当の評価にとどめられ、クレーンオペレーターという職業への影響が全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、神経眼科を専門とする眼科専門医の協力を得て、複視の精密評価を実施しました。ヘスチャート(Hessスクリーンテスト)により右下直筋の運動制限と眼位ずれを定量的に記録し、ゴールドマン視野計を用いた両眼単一視野の測定により、複視を生じない範囲が正面視を含む中心領域で著しく制限されていることを客観的に立証しました。
「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」に該当することを示し、13級相当ではなく10級2号「正面を見た場合に複視の症状を残すもの」の認定を受けることに成功しました。眼窩部CTの再評価により、整復術後も右下直筋の走行異常と瘢痕性癒着が残存していることを器質的根拠として記録しました。
その上で、移動式クレーンオペレーターという職業は、下方視での両眼立体視・深視力が業務遂行と労働安全の絶対条件であることを、クレーン等安全規則・社内安全作業マニュアル・移動式クレーン運転士免許の深視力要件、現場所長の陳述書、配置転換命令書、事故前後の給与明細により詳細に立証しました。
複視によりクレーン運転業務の継続が不可能となり、資格・免許を活かせない地上業務への配置転換と年収約30%の減少が現実化していることを根拠に、10級の通常の労働能力喪失率(27%)を上回る35%の喪失率を主張しました。さらに、プリズム眼鏡の生涯にわたる作製・更新費用と定期的な眼科検査費用約180万円を将来治療費として積算しました。
複視とクレーンオペレーターという職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約3.4倍の3,100万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・眼窩底骨折(吹き抜け骨折)後の複視は、ヘスチャートによる眼球運動の定量記録とゴールドマン視野計による両眼単一視野の測定を組み合わせることで、「正面視での複視」を客観的に立証し、13級2号(正面以外での複視)から10級2号へと等級を引き上げることができます。
- ・保険会社は複視を「片眼を閉じれば見える」「慣れれば問題ない」と軽視することがありますが、複視は距離感・立体感の喪失、眼精疲労、めまいを伴う深刻な障害であり、神経眼科専門医の意見書により日常生活・就労への影響を医学的に立証することが不可欠です。
- ・クレーンオペレーター・フォークリフト運転者・建設機械オペレーター・大型車運転手など、深視力・立体視が業務と資格の要件をなす職業の場合、複視は業務継続と免許維持を直接困難にするものであり、免許の深視力要件・配置転換の事実・手当喪失の証拠により、通常の等級基準を上回る労働能力喪失率を認めさせることができます。
- ・側面衝突事故による眼窩部のピラー打撃では、衝突の方向と頭部の挙動を事故車両の損傷状況・救急搬送記録・顔面CT所見と関連付けて立証することで、眼窩底骨折と事故との因果関係を確実に証明できます。
- ・眼窩底骨折では眼窩下神経の損傷による頬部・上口唇の知覚鈍麻を合併することが多く、知覚検査により神経症状を漏れなく記録し評価対象とすることで、損害全体の適正な評価につなげることができます。
- ・複視に対するプリズム眼鏡は生涯にわたる作製・更新が必要であり、専門医の意見書により将来の眼鏡費用・検査費用を積算することで、症状固定後の費用負担を適正に補償させることができます。
担当弁護士 石田大輔
