事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 男性 | |
| 年齢 | 40代 | |
| 職業 | 電気工事会社勤務の電気工事士(第一種電気工事士免許・高所作業車運転技能講習修了・職長・安全衛生責任者教育修了) | |
| 後遺障害等級 | 10級10号 | |
| 受傷部位 | 右肩腱板(棘上筋腱・棘下筋腱)完全断裂、鏡視下腱板修復術後の肩関節拘縮、右肩関節可動域制限(屈曲95度・外転80度)、夜間痛・挙上時痛 | |
| 事故の態様 | 名古屋市守山区の交差点において、バイクで直進中の被害者に、対向車線から右折してきた加害車両が衝突し(右直事故)、被害者が転倒して右肩から路面に落下 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 850万円 | ― |
| 休業損害 | 140万円 | 310万円 |
| 入通院慰謝料 | 100万円 | 240万円 |
| 逸失利益 | 330万円 | 1,700万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 190万円 | 550万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 850万円 | 2,900万円 |
交通事故の状況
名古屋市守山区の信号交差点において、バイクで直進していた被害者に、対向車線から右折してきた加害車両が被害者の進行を妨げて衝突しました(いわゆる右直事故)。加害者の一方的な過失による事故です。被害者はバイクもろとも転倒し、右肩から路面に落下して強い衝撃を受けました。
救急搬送先でのX線検査では骨折は認められませんでしたが、右肩の挙上が全くできない状態が続いたため、受傷から10日後にMRI検査が実施され、右肩腱板のうち棘上筋腱・棘下筋腱の完全断裂と関節内血腫が確認されました。受傷から1か月後に鏡視下腱板修復術(関節鏡を用いて断裂した腱を骨に縫着する手術)が施行され、術後の外転装具固定を経て、約11か月間にわたり理学療法士による可動域訓練と筋力強化訓練を継続しましたが、右肩関節の可動域制限(屈曲95度・外転80度、健側はいずれも180度)と夜間痛・挙上時痛が残存した状態で症状固定となりました。
相談内容
事故から約1年が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は電気工事会社に勤務する電気工事士として、ビル・工場の新築・改修現場での天井内配線、ケーブルラックの敷設、照明器具・分電盤の取付けなど、腕を頭上に挙げた姿勢を長時間維持する上向き作業を中核とする業務に従事し、職長として現場の統括も担っていました。電気工事の現場作業では、両腕を肩より高く挙上した状態での工具操作と、高所作業車・脚立上での安定した作業姿勢の保持が業務の絶対条件です。
事故後、右腕が肩の高さまでしか挙がらないため天井内での配線・器具取付けが一切不可能となり、高所での工具保持にも危険を伴うため、現場作業から内勤の積算・見積り業務への配置転換を余儀なくされ、現場手当・職長手当の喪失により年収は約30%減少しました。
保険会社の提示では、「腱板断裂は加齢による変性が原因」として素因減額が主張された上、可動域制限も12級相当の低い評価にとどめられ、電気工事士という職業への影響が全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、肩関節外科を専門とする整形外科専門医の協力を得て、断裂の外傷性を立証しました。受傷10日後のMRIにおいて、腱断端の性状が新鮮断裂の所見を示し、変性断裂で見られる棘上筋・棘下筋の筋萎縮や脂肪変性が認められないこと、関節内血腫が存在することを画像上の根拠として整理し、さらに事故前の健康診断結果と無欠勤の勤務記録により事故前に肩の症状が皆無であったことを示して、「加齢による変性断裂」という素因減額の主張を排斥しました。
可動域については、日本整形外科学会の測定要領に基づき健側との比較測定を実施し、屈曲・外転とも健側の2分の1以下に制限されていることを記録して、12級相当ではなく10級10号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」の認定を受けました。
その上で、電気工事士という職業は肩関節の挙上機能そのものが業務遂行と労働安全の絶対条件であることを、労働安全衛生規則・社内の高所作業手順書、現場所長の陳述書、配置転換命令書、事故前後の給与明細により詳細に立証しました。現場作業からの完全離脱と職長手当等の喪失による年収約30%の減少を根拠に、10級の通常の労働能力喪失率(27%)を上回る35%の喪失率を主張しました。
さらに、残存する夜間痛・挙上時痛に対する将来の疼痛治療費・リハビリ費用約120万円を積算しました。肩関節機能障害と電気工事士という職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約3.4倍の2,900万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・腱板断裂では保険会社から「加齢による変性断裂」という素因減額の主張が高い確率でなされますが、受傷早期のMRIによる新鮮断裂の所見(筋萎縮・脂肪変性の不存在、関節内血腫)と事故前の無症状の勤務記録を組み合わせることで、外傷性断裂であることを立証し、素因減額を排斥することができます。
- ・肩関節の可動域制限は、日本整形外科学会の測定要領に基づく健側との比較測定を正確に実施し、主要運動である屈曲・外転が健側の2分の1以下であることを記録することで、12級6号ではなく10級10号の認定を獲得することができます。
- ・電気工事士・配管工・塗装工・大工・空調設備工など、頭上への挙上作業と高所作業が業務の中核をなす職業の場合、肩関節の機能障害は現場業務の継続を直接困難にするものであり、配置転換の事実と手当喪失の証拠により、通常の等級基準を上回る労働能力喪失率を認めさせることができます。
- ・バイクの右直事故では、転倒により肩から路面に落下する受傷メカニズムを、事故状況・車両損傷・救急搬送記録・MRI所見と関連付けて立証することで、腱板断裂と事故との因果関係を確実に証明できます。
- ・腱板断裂は受傷直後のX線検査では写らないため見逃されやすく、肩の挙上不能が続く場合には早期のMRI検査を求めることが、器質的損傷の発見と適正な等級認定の成否を分けます。
- ・腱板修復術後も残存する夜間痛・挙上時痛は就労と睡眠に影響を与える実在の症状であり、疼痛の記録と治療の継続により、将来の治療費と慰謝料に適正に反映させることができます。
担当弁護士 石田大輔
