事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 女性 | |
| 年齢 | 40代 | |
| 職業 | 観光バス会社勤務の大型バス運転士(大型二種免許所持、長距離観光バス・団体旅行・空港送迎を担当) | |
| 後遺障害等級 | 9級10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの) | |
| 受傷部位 | 外傷後ストレス障害(PTSD)、フラッシュバック、悪夢、回避症状、過覚醒、パニック症状、睡眠障害 | |
| 事故の態様 | 名古屋高速道路上で乗用車を運転中、渋滞最後尾で停車していた被害車両へ大型トラックが高速で追突し、前方車両との間に挟まれ車内に一時閉じ込められた | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 800万円 | ― |
| 休業損害 | 100万円 | 280万円 |
| 入通院慰謝料 | 110万円 | 230万円 |
| 逸失利益 | 380万円 | 2,200万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 180万円 | 690万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 800万円 | 3,700万円 |
交通事故の状況
名古屋高速道路上で渋滞最後尾に停車していた被害者の乗用車へ、減速が遅れた大型トラックが後方から激しく追突しました。被害車両は前方車両との間に挟まれて大破し、被害者は救助されるまで約30分間車内から出られない状態となりました。身体的には頚椎捻挫や胸部打撲等を負いましたが、頭部CT・MRIでは脳の器質的損傷は認められませんでした。
事故から数週間後より、追突音を思い出して動悸がする、車のブレーキ音を聞くと事故現場の映像が突然よみがえる、夜間に事故の夢を繰り返し見るなどの症状が出現しました。特に高速道路や大型トラックを見ると強い恐怖と発汗、呼吸困難が生じ、自動車を運転できなくなりました。精神科でPTSDと診断され、薬物療法と認知行動療法を継続しましたが、約1年6か月が経過しても高速道路走行や大型車両への接近に対する強い恐怖反応と回避症状が残り、症状固定となりました。
相談内容
被害者は観光バス会社で15年以上勤務する大型バス運転士で、修学旅行、企業研修、団体旅行、空港送迎などを担当していました。繁忙期には高速道路を利用して1日に数百kmを運転することもあり、安全確認、長時間の集中力、周囲の大型車両への的確な対応が不可欠な仕事でした。事故後は乗用車の助手席に乗ることさえ困難な時期が続き、高速道路に入ると動悸や過呼吸が生じました。
勤務先は産業医と主治医の診断を踏まえ、バス運転業務への復帰を認めず、運行管理補助や予約入力を中心とする事務業務へ配置転換しました。その結果、乗務手当、長距離手当、宿泊手当、時間外勤務が大幅に減り、年収は約30%低下しました。保険会社は「身体には大きな後遺障害がない」「日常会話や買い物はできている」としてPTSDによる労働能力への影響を低く評価し、専門職であるバス運転士へ復帰できない現実を十分に考慮していなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、事故直後の救急搬送記録、車両損傷写真、実況見分資料等を整理し、被害者が高速道路上で大型トラックに追突され、大破した車内に閉じ込められたという強い心理的負荷を伴う事故であったことを確認しました。そのうえで、精神科初診から症状固定までの診療録、服薬履歴、心理検査、本人が記録した症状日誌を時系列に整理しました。家族からは、事故前には問題なく自動車を運転していた被害者が、事故後にはブレーキ音や大型車を極端に避けるようになり、睡眠中に事故の夢で目覚めるようになった状況について陳述書を作成しました。主治医には、フラッシュバック、回避、過覚醒、睡眠障害等が継続していることと、それらが運転業務の安全な遂行を困難にしていることを具体的に記載してもらい、神経系統又は精神の障害として9級10号の認定を受けました。
さらに、大型バス運転士が数十人の乗客の生命を預かる職業であり、走行中のパニックや回避反応を許容できないことを、会社の安全規程、産業医面談記録、配置転換通知で立証しました。事故前後の給与明細から約30%の現実減収も示し、9級の一般的な労働能力喪失率35%を基礎としながら、職業選択の著しい制限を踏まえて逸失利益を主張しました。訴訟上の和解により最終的に3,700万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・PTSDではCTやMRIに異常が映らないことが通常であるため、画像上の脳損傷がないことだけを理由に症状を否定することは適切ではありません。精神科での継続的な診療記録と症状の経過を残すことが重要です。
- ・事故直後から精神症状が出るとは限りません。事故後に悪夢、フラッシュバック、事故場面の回避、過度な警戒、動悸、睡眠障害等が続く場合には、自己判断で我慢せず、精神科・心療内科等へ相談することが重要です。
- ・PTSDの後遺障害を検討する場合には、診断名だけではなく、精神症状が日常生活や就労能力のどこを制限しているのかを具体化する必要があります。本人の症状日誌や家族・同僚の観察記録も重要な補助資料となります。
- ・バス・タクシー・トラック等の職業運転手では、「普段は普通に生活できる」という事実だけで労働能力を評価できません。運転中に突然強い恐怖やフラッシュバックが生じる可能性そのものが、安全上重大な職業制限となります。
- ・配置転換による基本給以外の収入低下にも注意が必要です。職業運転手では乗務手当、長距離手当、深夜手当、時間外手当等が収入の重要な部分を占めるため、事故前後の給与明細を細かく比較する必要があります。
- ・精神障害の事案では、保険会社から事故との因果関係や症状の程度を争われることがあります。事故態様、精神科受診の時期、症状の継続性、治療内容、職場での制限を時系列で一貫して示すことが適正な評価につながります。
