事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 女性 | |
| 年齢 | 30代 | |
| 職業 | バレエ教室勤務のバレエ講師(クラシックバレエ指導歴15年、児童・コンクールクラスの実技指導と振付を担当) | |
| 後遺障害等級 | 10級11号(1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの) | |
| 受傷部位 | 右距骨頸部骨折、距骨体部の骨壊死、外傷性足関節症、右足関節可動域制限(背屈0度・底屈20度)、歩行時痛・片脚立位不安定 | |
| 事故の態様 | 名古屋市昭和区の横断歩道において、青信号で歩行中の被害者に左折車両が衝突し、右足を車体下に巻き込まれた状態で転倒 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 900万円 | ― |
| 休業損害 | 120万円 | 360万円 |
| 入通院慰謝料 | 100万円 | 250万円 |
| 逸失利益 | 350万円 | 1,900万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 190万円 | 550万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 900万円 | 3,300万円 |
交通事故の状況
名古屋市昭和区の信号交差点において、青信号で横断歩道を歩行していた被害者に、後方確認が不十分なまま左折してきた加害車両が衝突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。被害者は車体に押される形で転倒し、右足部が一時的に車体下へ巻き込まれ、足関節に強い軸圧とねじれが加わりました。救急搬送先でのX線・CT検査により右距骨頸部骨折が確認され、骨片の転位が大きく距骨への血流障害が懸念されたため、観血的整復固定術が施行されました。
術後は長期間の免荷を要し、その後段階的に荷重訓練を開始しましたが、受傷から約6か月後のMRIで距骨体部の一部に骨壊死を示す所見が確認され、足関節の関節面にも外傷性変化が進行しました。約1年2か月にわたり理学療法と足底板・足関節装具を用いた保存療法を継続しましたが、右足関節の背屈0度・底屈20度(健側は背屈20度・底屈45度)という高度の可動域制限と、長時間歩行・片脚立位・つま先立ちでの疼痛が残存した状態で症状固定となりました。
相談内容
事故から約1年4か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者はバレエ教室の常勤講師として、幼児からコンクール出場者までの実技指導、振付、模範演技、発表会のリハーサル指導を担当していました。クラシックバレエの指導では、足関節を大きく底屈させるポワント・ドゥミポワント、片脚でのバランス保持、ジャンプの着地、ターン動作を講師自身が正確に示すことが求められます。
事故後は右足関節の底屈が大きく制限され、つま先立ちを維持できず、片脚での回転やジャンプの着地で強い痛みと不安定感が生じるため、上級クラス・コンクールクラスの実技指導から外れざるを得なくなりました。振付の説明は口頭でできても、動きを自ら再現できないことから担当生徒数が減り、発表会・外部ワークショップの指導手当も失われ、年収は約30%減少しました。保険会社の提示では、平地歩行が可能で日常生活の多くを自立して行えることを理由に、バレエ講師として必要な足関節機能への影響が十分に評価されず、逸失利益も一般的な事務職を前提とした低額な算定にとどまっていたため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、足の外科を専門とする整形外科医の協力を得て、距骨骨折後の構造的障害と機能障害を整理しました。事故直後のCTで骨折線・転位の程度を確認するとともに、経時的なMRIにより距骨体部の骨壊死と軟骨下骨の変化を記録し、疼痛と可動域制限に明確な器質的根拠があることを示しました。足関節可動域については同一条件で健側・患側を比較し、主要運動である背屈・底屈の合計可動域が健側65度に対し患側20度に制限され、健側の2分の1以下であることを後遺障害診断書に正確に反映しました。これにより、10級11号『1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの』の認定を受けました。
その上で、バレエ講師は単に立って説明する仕事ではなく、足関節の最大底屈、片脚支持、反復ジャンプ、回転を自ら実演することが指導品質と安全確保の前提であることを、教室代表者の陳述書、事故前後の担当クラス表、発表会・コンクール指導記録、報酬明細、レッスン動画によって具体的に立証しました。上級クラスの実技指導から外れたことによる現実の収入減と、同種職業への転職可能性の低下を踏まえ、10級の一般的な労働能力喪失率27%を上回る35%の喪失率を主張しました。
さらに、外傷性足関節症の進行に伴って継続が必要となる足底板・足関節装具の更新費用、定期的な画像検査・疼痛管理に要する費用を将来費用として積算しました。距骨骨折後の機能障害とバレエ講師という特殊な職業能力の喪失を総合的に立証し、訴訟上の和解により最終的に3,300万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・距骨骨折は骨折自体の癒合だけでなく、距骨への血流障害による骨壊死や外傷性足関節症を生じることがあります。事故直後のCTだけで終わらせず、経時的なMRIやX線で骨壊死・関節面変化を追跡し、残存症状の器質的根拠を残すことが重要です。
- ・足関節の機能障害は、背屈・底屈の可動域を健側と同じ条件で測定し、主要運動の可動域が健側の2分の1以下に制限されていることを正確に記録することで、10級11号の認定につながります。測定方法や疼痛による一時的な制限との区別も重要です。
- ・バレエ講師・ダンス講師・スポーツインストラクター・舞台実演者など、足関節の最大可動域と片脚支持能力そのものが職務の中核となる職業では、平地歩行ができることと職業能力を維持できることは同義ではありません。実技指導の内容を具体的に分解して立証する必要があります。
- ・歩行者が車両に接触して足部を巻き込まれた事故では、足関節に加わった軸圧・回旋力と骨折形態を事故状況、車両の接触部位、救急搬送時の腫脹・変形、CT所見と関連付けることで、距骨骨折と事故との因果関係を明確にできます。
- ・事故前後の担当クラス表、指導料・発表会手当、レッスン動画、教室代表者や同僚の陳述書を揃えることで、抽象的な『足が動かしにくい』という主張ではなく、どの実技ができなくなり、どの収入が失われたのかを客観的に示すことができます。
- ・距骨骨折後に外傷性足関節症が残る場合、症状固定後も装具の更新や定期的な画像検査・疼痛管理が必要となることがあります。将来費用を求める場合には、専門医の意見書と具体的な見積りを用いて必要性・頻度・期間を丁寧に立証することが重要です。
