事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 男性 | |
| 年齢 | 40代 | |
| 職業 | 物流センター勤務のフォークリフトオペレーター兼班長(フォークリフト運転技能講習修了、入出庫・高所ラック格納・作業班の安全管理を担当) | |
| 後遺障害等級 | 9級10号(神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの) | |
| 受傷部位 | 右側頭葉脳挫傷、外傷性くも膜下出血、外傷性てんかん(焦点意識減損発作が3~4か月に1回程度)、発作後の頭痛・倦怠感 | |
| 事故の態様 | 名古屋市港区の交差点において、青信号で軽貨物車を直進中の被害者車両に、信号無視の大型車両が運転席側から衝突し、被害者が右側頭部を車内に強打 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 1,200万円 | ― |
| 休業損害 | 140万円 | 380万円 |
| 入通院慰謝料 | 120万円 | 280万円 |
| 逸失利益 | 550万円 | 2,550万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 250万円 | 690万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 1,200万円 | 4,200万円 |
交通事故の状況
名古屋市港区の信号交差点において、青信号で軽貨物車を直進していた被害者車両に、赤信号を無視して交差道路から進入した大型車両が運転席側面から衝突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。側面衝突により被害者は右側頭部をドアピラー付近に強打し、一時的な意識障害を呈して救急搬送されました。頭部CTで右側頭葉の脳挫傷と外傷性くも膜下出血が確認され、約3週間の入院治療後に退院しました。
当初は頭痛と易疲労感が主症状でしたが、事故から約2か月後、自宅で会話中に突然反応が止まり、数十秒間ぼんやりして口をもぐもぐさせる発作が出現しました。その後も3~4か月に1回程度、意識が途切れて周囲への反応が失われる発作を繰り返したため、脳神経内科で長時間脳波検査を行ったところ、右側頭部を中心とするてんかん性放電が確認され、脳MRIでも右側頭葉に脳挫傷後の瘢痕・グリオーシスが残存していました。抗てんかん薬による治療を継続しましたが発作は完全には消失せず、症状が安定した時点で症状固定となりました。
相談内容
事故から約1年3か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は大規模物流センターでフォークリフトオペレーター兼班長として、パレット貨物の入出庫、高所ラックへの格納、トラックへの積込み、作業員の誘導、安全確認を担当していました。フォークリフト作業では、走行中・荷役中に数秒でも意識や反応が途切れることが、本人だけでなく周囲の作業員を巻き込む重大事故につながります。
事故後、勤務先は医師の診断内容と社内安全基準を踏まえ、被害者をフォークリフト運転・荷役作業から外し、在庫データ入力・伝票照合を中心とする内勤業務へ配置転換しました。交替勤務手当・班長手当・残業手当が減り、年収は事故前から約25%低下しました。発作のない時には会話や歩行が通常どおりできるため、保険会社は『日常生活は自立している』『服薬である程度抑制されている』として就労への影響を低く評価し、外傷性てんかんによって危険作業・車両操作を伴う職種から事実上排除されている現実を十分に考慮していなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、てんかん診療を専門とする脳神経内科医の協力を得て、事故による脳損傷と発作の因果関係、発作型と頻度を整理しました。事故直後のCT・MRIで右側頭葉脳挫傷を確認し、症状固定前のMRIでは同部位に脳挫傷後の瘢痕・グリオーシスが残存していることを記録しました。通常脳波だけでなく睡眠を含む長時間脳波検査を複数回行い、右側頭部に反復するてんかん性棘波・鋭波を確認しました。
また、本人の発作日誌、家族と同僚が目撃した発作状況の陳述書、救急受診記録、抗てんかん薬の処方履歴を時系列で整理し、『転倒は伴わないものの意識が途切れ行為が中断する焦点意識減損発作が3~4か月に1回程度残存する』ことを具体的に立証しました。神経系統の機能に障害を残し、就労可能な職種が相当程度制限される状態として9級10号の認定を受けました。その上で、フォークリフト運転・高所ラック荷役は発作時の短時間の意識障害でも重大事故を生じ得る業務であり、会社が安全上の理由から運転業務への復帰を認めていないことを、産業医面談記録、配置転換通知、社内安全基準、事故前後の勤務表・給与明細で立証しました。
事故前職種への復帰が困難で、交替勤務・班長業務を失ったことによる現実の収入減を踏まえ、9級の一般的な労働能力喪失率35%を上回る45%の喪失率を主張しました。さらに、抗てんかん薬の継続的な血中濃度・肝機能等の検査、定期的な脳波検査の必要性について主治医の意見を提出しました。外傷性てんかんの客観的立証と安全性が重視される物流職への具体的な職業制限を組み合わせ、訴訟上の和解により最終的に4,200万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・外傷性てんかんの認定では、単に『発作がある』と訴えるだけでなく、事故による脳の器質的損傷、発作型、発作頻度、治療内容を一体として示す必要があります。頭部CT・MRI、脳波検査、服薬記録、発作日誌を時系列で揃えることが重要です。
- ・外傷性てんかんは発作の型と頻度によって評価が変わります。転倒を伴う発作か、意識が途切れるが転倒しない発作かを区別し、家族・同僚など第三者の目撃情報も用いて発作中の具体的な状態を記録することが、適正な等級判断につながります。
- ・フォークリフトオペレーター・建設機械運転者・高所作業従事者など、短時間の意識障害でも本人や第三者に重大な危険を生じさせる職業では、発作のない時間帯の日常生活能力だけで労働能力を評価することは適切ではありません。事故前職種へ復帰できない具体的理由を立証する必要があります。
- ・勤務先の産業医記録、社内安全基準、配置転換通知、勤務表、各種手当の推移を提出することで、外傷性てんかんによる職種制限が本人の主観ではなく、現実の労務管理上の制約として生じていることを客観的に示すことができます。
- ・通常の短時間脳波では異常が記録されない場合もあるため、症状と脳損傷の部位からてんかんが疑われる場合には、主治医の判断のもと睡眠脳波や長時間脳波など適切な検査を受け、器質的所見と電気生理学的所見を可能な限り揃えることが重要です。
- ・保険会社から『薬を飲めば発作は抑えられる』『普段は普通に生活できる』と主張された場合でも、発作再発の記録、長期服薬の必要性、危険作業からの配置転換、現実の収入減を具体的に示すことで、外傷性てんかんが将来の就労選択に与える継続的な影響を適正に評価させることができます。
