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交通事故による肋骨骨折:被害者が知るべき後遺障害認定と賠償請求の全知識

肋骨の痛みのイメージ

監修:弁護士 石田 大輔
所属:愛知県弁護士会
2025.12.7

「肋骨骨折くらい大したことない」は大間違い──適切な賠償を受けるために

交通事故に遭い、病院で「肋骨骨折」と診断されたとき、多くの被害者は「骨折なのに、ギプスもしないの?」「数週間で治るなら、大した怪我じゃないのかな」と感じるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。

肋骨骨折は、呼吸のたびに痛みが走り、日常生活に大きな支障をきたす深刻な怪我です。
さらに、治療後も痛みや呼吸機能の低下が残るケースも少なくありません。にもかかわらず、適切な後遺障害認定を受けられず、十分な賠償を得られない被害者が後を絶たないのが現実なのです。

今回は、交通事故による肋骨骨折で被害者が直面する問題と、適正な賠償を受けるために知っておくべき重要なポイントを、法的な観点から詳しく解説します。

交通事故による肋骨骨折の実態

交通事故による肋骨骨折は、決して珍しい怪我ではありません。
特に以下のような状況で発生しやすいとされています:

  • ・車同士の側面衝突(ドア部分への強い衝撃)
  • ・正面衝突時のシートベルトやハンドルへの衝突
  • ・バイク事故での転倒や車体への挟まれ
  • ・歩行者が車に跳ね飛ばされた際の胸部打撲

肋骨は胸部を守る「鳥かご」のような構造をしていますが、交通事故の強い衝撃には耐えられず、複数本が同時に骨折することも珍しくありません。
1本の骨折であれば比較的軽症ですが、複数本の骨折や、骨折部位が複数箇所にわたる「多発肋骨骨折」の場合は、重篤な状態となります。

さらに深刻なのは、肋骨骨折に伴う合併症です。骨折した肋骨の鋭い断端が肺を傷つける「気胸」や「血胸」、呼吸が十分にできなくなる「呼吸不全」、そして長期的には「肺炎」のリスクも高まります。
これらは命に関わる可能性がある重大な合併症です。

肋骨骨折で認定される後遺障害等級

肋骨骨折が治癒した後も、痛みや呼吸機能の低下、変形などが残存することがあります。
このような場合、後遺障害として認定される可能性があります。

【認定される可能性のある後遺障害等級】

12級5号「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」
  • ・肋骨の変形が外部から確認できる、またはレントゲン等で明らかな変形が認められる場合
  • ・自賠責保険金額:224万円
12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」
  • ・画像所見等で神経障害の存在が医学的に証明できる痛みが残っている場合
  • ・自賠責保険金額:224万円
14級9号「局部に神経症状を残すもの」
  • ・医学的に説明可能な痛みが残っている場合
  • ・自賠責保険金額:75万円

ここで重要なのは、単に「痛い」と訴えるだけでは後遺障害として認定されないという点です。
医学的な根拠、継続的な通院記録、検査結果などが必要になります。

後遺障害認定を受けるための重要ポイント

適切な後遺障害認定を受けるためには、事故直後から治療終了まで、戦略的に動く必要があります。

1. 事故直後の対応が命運を分ける

「ちょっと痛いけど、我慢できる」と思っても、必ず事故当日か翌日には医療機関を受診してください。
時間が経ってから受診すると、「事故との因果関係が不明」として、後々不利になる可能性があります。

受診時には、胸部の痛みだけでなく、呼吸の苦しさ、咳をしたときの痛み、体を動かしたときの痛みなど、すべての症状を詳しく医師に伝えましょう。

2. 継続的な通院が不可欠

肋骨骨折の治療期間中は、定期的に通院することが極めて重要です。
「仕事が忙しい」「痛みが少し和らいだ」といった理由で通院を中断すると、「もう治った」と判断され、適切な補償を受けられなくなります。

目安としては、週に2~3回程度の通院を継続することが望ましいとされています。
通院頻度が少ないと、「それほど重症ではなかった」と評価されてしまう危険性があるのです。

3. 画像検査の記録を確実に残す

レントゲン、CT、MRIなどの画像検査は、骨折の程度や変形の有無を客観的に証明する重要な証拠です。
初診時だけでなく、治療経過中も定期的に撮影し、骨の癒合状況や変形の程度を記録に残しましょう。

特に症状固定時(これ以上治療を続けても改善が見込めない状態)には、必ず画像検査を受け、残存する変形や異常を記録することが後遺障害認定のカギとなります。

4. 症状固定のタイミングを慎重に判断

「症状固定」とは、これ以上治療を続けても症状の改善が期待できない状態を指します。
保険会社から早期の症状固定を促されることがありますが、安易に応じてはいけません。

肋骨骨折の場合、通常は受傷後3~6か月程度が症状固定の目安とされますが、個人差があります。
まだ痛みが強い、呼吸機能が回復していないという場合は、主治医とよく相談し、適切な時期まで治療を継続しましょう。

請求できる損害賠償の種類と金額

交通事故による肋骨骨折で請求できる損害賠償は、大きく分けて以下のものがあります。

【積極損害】実際に支出した費用

  • ・治療費(入院費、手術費、通院費など)
  • ・通院交通費
  • ・入院雑費
  • ・装具代(胸部固定バンドなど)

【消極損害】得られるはずだった利益の喪失

  • ・休業損害:治療のために仕事を休んだことによる収入減少
  • ・逸失利益:後遺障害により将来得られるはずだった収入の減少

【慰謝料】精神的苦痛に対する補償

  • ・入通院慰謝料:治療期間に応じて算定
  • ・後遺障害慰謝料:認定された等級に応じて算定

例えば、会社員(年収500万円)が交通事故で肋骨を3本骨折し、3か月入通院、後遺障害12級が認定されたケースを想定すると:

  • ・治療費:約80万円
  • ・休業損害:約125万円(3か月分)
  • ・入通院慰謝料:約73万円(赤い本基準)
  • ・後遺障害慰謝料:約290万円(12級)
  • ・逸失利益:約490万円(労働能力喪失率14%、5年)

合計:約1,058万円

ただし、これはあくまで一例です。実際の金額は、個別の事情により大きく変動します。

保険会社との交渉で陥りやすい落とし穴

加害者側の保険会社は、できるだけ支払額を抑えようとするのが実情です。
被害者が知識不足のまま交渉すると、以下のような不利な状況に追い込まれる危険があります。

落とし穴1:「自賠責基準」での提示

保険会社が最初に提示してくる金額は、多くの場合「自賠責基準」という最低限の基準に基づいています。
しかし、本来であれば「弁護士基準(裁判基準)」で算定すべきであり、その差は2~3倍になることも珍しくありません。

落とし穴2:早期の示談を迫られる

「早く示談すれば、すぐにお金が支払われますよ」と、治療中や症状固定前に示談を勧められることがあります。
しかし、一度示談してしまうと、後から追加の請求はできません。焦らず、適切なタイミングで示談交渉を始めましょう。

落とし穴3:過失割合で揉める

「あなたにも過失がある」として、過失割合を高く主張されるケースがあります。
過失割合が10%違うだけで、受け取れる賠償額は大きく変わります。不当に高い過失割合を押し付けられないよう、注意が必要です。

弁護士に相談すべきタイミングとメリット

交通事故の賠償請求において、弁護士のサポートを受けることで得られるメリットは計り知れません。

【弁護士に依頼するメリット】

  • ・適正な後遺障害等級の獲得をサポート
  • ・「弁護士基準」での高額な賠償金の獲得
  • ・煩雑な手続きや交渉をすべて代行
  • ・保険会社との精神的なストレスからの解放
  • ・過失割合の適正な判断と主張
  • ・裁判になった場合の対応

特に、後遺障害が残る可能性がある場合、複数本の肋骨骨折の場合、保険会社の対応に納得がいかない場合は、早期に弁護士に相談することを強くおすすめします。

多くの法律事務所では「初回相談無料」や「着手金無料」のサービスを提供しています。
また、ご自身の自動車保険に「弁護士費用特約」が付いていれば、費用負担なく弁護士に依頼できる可能性があります。

まとめ:適正な賠償を受けるために

交通事故による肋骨骨折は、見た目以上に深刻な怪我であり、適切な対応をしなければ、十分な賠償を受けられない可能性があります。

【被害者が覚えておくべき重要ポイント】

  • ✓ 事故後すぐに医療機関を受診し、すべての症状を伝える
  • ✓ 継続的な通院を怠らず、治療記録をしっかり残す
  • ✓ 画像検査を定期的に受け、客観的証拠を確保する
  • ✓ 症状固定のタイミングを慎重に判断する
  • ✓ 保険会社の提示額を鵜呑みにしない
  • ✓ 後遺障害が残る可能性があれば、早期に弁護士に相談する

肋骨骨折という怪我は、あなたの生活を大きく変えてしまう可能性があります。適正な賠償を受けることは、あなたの当然の権利です。
一人で悩まず、専門家の力を借りながら、納得のいく解決を目指してください。