高次脳機能障害の後遺障害認定:認定基準と適切な対応策
監修:弁護士 石田 大輔
所属:愛知県弁護士会
2025.1.14
Contents
高次脳機能障害とは何か?
高次脳機能障害とは、脳の損傷により記憶や注意、感情コントロールといった脳の「高次機能」が障害される状態を指します。
交通事故や脳血管疾患が主な原因となり、日常生活や社会復帰に大きな影響を与えることがあります。
高次脳機能障害の定義と特徴
高次脳機能障害は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などの複数の症状がみられる状態を指します。
これらの障害により、日常生活や仕事、家庭での役割が著しく制限されることが一般的です。
発生する主な原因
- 1.脳梗塞や脳出血脳血管の異常が原因で脳の機能が低下します。
- 2.外傷性脳損傷交通事故や転倒などで頭部に強い衝撃を受けた際に生じます。
- 3.その他の要因低酸素脳症や脳炎などが挙げられます。
どのような日常生活への影響があるか
高次脳機能障害は、仕事や家事、対人関係に影響を及ぼします。たとえば、短期記憶が難しくなり、約束を忘れてしまう、仕事の指示を理解できないといった問題が起こります。これにより本人だけでなく、周囲の人々にも大きな負担を強いることがあります。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害は、次のような症状が特徴です。
- 1.記憶障害短期記憶や長期記憶が障害され、新しい情報を覚えられない、過去の出来事を忘れてしまうといった問題が生じます。
- 2.注意障害注意力が低下し、一つの作業に集中できない、周囲の状況に気づかないといった症状がみられます。
- 3.遂行機能障害計画を立てることや物事を段階的に進める能力が低下します。そのため、複雑な作業をこなすことが困難になります。
- 4.社会的行動障害感情のコントロールが難しくなり、衝動的な行動や不適切な発言をしてしまう場合があります。これにより、対人関係が悪化することもあります。
- 5.認知障害判断力や理解力の低下がみられます。簡単な指示でも理解できなかったり、状況を適切に判断できないことがあります。
後遺障害等級と高次脳機能障害の認定基準
高次脳機能障害が後遺障害として認定されるためには、等級ごとの基準を満たす必要があります。
後遺障害等級とは?
後遺障害等級は、交通事故などで負った障害の程度を示す基準です。
1級(重度)から14級(軽度)まであり、等級が高いほど、受けられる補償額が増加します。
高次脳機能障害が該当する主な等級
高次脳機能障害は、主に1級から9級に該当します。具体的には以下の基準があります。
- 1級~2級: 介護が必要な場合や日常生活が著しく困難な場合。
- 3級~5級: 社会生活に大きな制限がある場合。
- 6級~9級: 労働能力が一部喪失した場合。
認定基準で重視されるポイント
- 医学的根拠: MRIやCTの画像で脳損傷が確認されること。
- 日常生活への影響: 症状が日常生活にどのような支障があるか。
- 認知機能検査結果: 神経心理学的検査で異常が確認されること。
後遺障害認定の申請プロセス
高次脳機能障害の後遺障害認定を受けるためには、以下のステップを踏む必要があります。
認定申請の流れと必要書類
後遺障害認定の申請には、以下の手順を進めます。
- 1. 医師による後遺障害診断書の作成を依頼。
- 2. 必要な検査結果(MRI、心理学的検査のデータなど)を準備。
- 3. 保険会社を通じて後遺障害等級認定を申請。
- 4. 審査結果の通知を待つ。
後遺障害診断書の作成
後遺障害診断書は、認定において最も重要な書類の一つです。以下の内容が記載されている必要があります。
- 発症の経緯と病歴
- 現在の症状とその程度
- 日常生活への具体的な支障
- 検査結果による客観的な所見
認定結果に不満がある場合の対応方法
認定結果に納得できない場合は、異議申立てを行うことが可能です。異議申立てでは、新たな医学的証拠や追加の診断書を提出することで、認定結果が変更される可能性があります。
認定を受けるための重要ポイント
治療経過の記録と継続的な通院
治療経過の詳細な記録は、認定を受けるための重要な証拠となります。また、適切な頻度で通院し、治療を継続することも重要です。
家族の協力と症状の客観的記録
家族が日常生活で見られる症状を記録することは、認定において有力な証拠となります。症状の変化や支障の具体例を日記形式で記録するのがおすすめです。
弁護士や専門家の活用
認定手続きや保険会社との交渉は複雑で専門的な知識が必要です。経験豊富な弁護士に相談することで、スムーズな認定手続きと適切な補償を得ることが可能です。
高次脳機能障害と補償金の目安
後遺障害等級ごとの補償額
等級ごとの補償額の目安は以下の通りです。
- 1級: 約2,800万円以上(労働能力喪失率100%)
- 3級: 約2,000万円前後
- 5級: 約1,000万円~1,500万円
- 9級: 約600万円~800万円
逸失利益の計算方法
逸失利益は、労働能力の喪失率や就労年数、年収を基に計算されます。例えば、5級認定を受けた場合、労働能力喪失率は56%とされ、基準年収に応じた補償額が算出されます。
適切な慰謝料を受け取るために必要なこと
後遺障害等級に基づく慰謝料は一定の基準がありますが、適切な補償を受けるためには、診断書や症状の記録が非常に重要です。
また、弁護士による交渉が慰謝料増額に効果的な場合があります。
まとめ:高次脳機能障害認定で失敗しないために
高次脳機能障害の認定は複雑な手続きが必要ですが、以下のポイントを押さえることでスムーズな進行が可能です。
- – 早期に専門医を受診し、診断書を作成してもらう。
- – 治療経過や日常生活の変化を詳細に記録する。
- – 弁護士や専門家を活用して認定手続きや補償交渉を進める。
認定を受けた後も、リハビリや支援サービスを活用し、生活の質を向上させることが重要です。
一人で抱え込まず、専門家の力を借りて適切な補償を受けましょう。
高次脳機能障害についてのご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。経験豊富な専門家がサポートいたします。