脳震盪の後遺障害認定:軽視されがちな症状の適切な評価と補償請求 - 名古屋の交通事故弁護士

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脳震盪の後遺障害認定:軽視されがちな症状の適切な評価と補償請求

頭痛や眩暈に苦しむ男性

監修:弁護士 石田 大輔
所属:愛知県弁護士会
2025.7.11

脳震盪は頭部外傷の中でも最も頻度が高く、スポーツ外傷や交通事故などで日常的に発生する病態です。しかし、「軽い頭部外傷」として軽視されがちな脳震盪でも、適切な治療を受けずに放置されると深刻な後遺障害が残存する可能性があります。
近年の医学研究により、脳震盪による長期的な影響が明らかになってきており、適正な診断・治療・補償の重要性が再認識されています。本稿では、脳震盪による後遺障害の特徴や認定基準、適切な対応策について詳しく解説します。

脳震盪の病態と後遺障害の実態

脳震盪は、頭部への衝撃により脳が一時的に機能障害を起こす状態で、医学的には「軽度外傷性脳損傷(mild Traumatic Brain Injury: mTBI)」と呼ばれます。従来は「意識消失を伴う軽微な頭部外傷」として定義されていましたが、現在では意識消失がなくても、見当識障害や記憶障害、混乱状態などが生じた場合も脳震盪として診断されるようになりました。

脳震盪の発症メカニズムは、頭部への直接的な打撃だけでなく、急激な加速・減速運動によっても引き起こされます。交通事故でのむち打ち損傷や、スポーツでの身体接触により、脳が頭蓋内で揺さぶられることで神経細胞に微細な損傷が生じるのです。

急性期症状の特徴

脳震盪の急性期には以下のような症状が現れます:

身体症状:頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、平衡感覚障害 認知症状:記憶障害、集中力低下、判断力低下、見当識障害 情動症状:易怒性、抑うつ、不安、感情の不安定 睡眠障害:不眠、過眠、睡眠の質の低下

これらの症状は受傷直後から数時間、場合によっては数日後に出現することがあり、症状の遅発性が診断を困難にする要因の一つとなっています。

慢性的な後遺障害

脳震盪後症候群(Post-Concussion Syndrome: PCS)として知られる慢性的な後遺障害は、受傷から3カ月以上経過しても症状が持続する状態を指します。主な症状は以下の通りです:

持続性頭痛:緊張型頭痛や片頭痛様の症状 認知機能障害:注意力低下、記憶力低下、情報処理速度の低下 情動障害:抑うつ、不安、易怒性、人格変化 前庭機能障害:めまい、平衡感覚障害、車酔いしやすさ 視覚障害:複視、眩しさ、焦点合わせ困難 聴覚過敏:音に対する過敏性、耳鳴り

私が担当した症例では、軽微な交通事故による脳震盪後、1年以上経過しても集中力低下と記憶障害が持続し、就労に支障をきたしているケースが少なくありません。

脳震盪による後遺障害等級の認定基準

脳震盪による後遺障害は、主に高次脳機能障害として評価されますが、その軽微性から適切な等級認定を受けることが困難な場合が多いのが実情です。

高次脳機能障害としての評価

脳震盪による後遺障害は、以下の等級で認定される可能性があります:

  • ■5級2号:高次脳機能障害により、社会復帰はできるが単純作業に限定される状態
  • ■7級4号高次脳機能障害により、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどの症状により一般就労に支障がある状態
  • ■9級10号高次脳機能障害により、社会復帰はできるが軽易な労働に制限される状態
  • ■12級13号軽微な高次脳機能障害を残す状態
  • ■14級9号軽微な神経症状を残す状態

実際の認定においては、神経心理学的検査の結果と日常生活での具体的な支障を総合的に評価することが重要です。

認定における課題と対策

脳震盪による後遺障害認定では、以下のような課題があります:

  • ■画像所見の乏しさ CT・MRIでは明らかな異常が認められないことが多く、器質的な脳損傷の証明が困難です。しかし、拡散テンソル画像(DTI)や機能的MRI(fMRI)などの高度な画像検査により、微細な脳損傷を検出できる場合があります。
  • ■症状の主観性頭痛、めまい、集中力低下などの症状は患者の主観的な訴えに依存するため、客観的な評価が困難です。この課題に対しては、詳細な神経心理学的検査と日常生活での具体的な支障の記録が重要となります。
  • ■症状の遅発性受傷直後には軽微な症状しか認められないことが多く、後に重篤な症状が出現した際の因果関係の証明が困難になることがあります。

医学的評価と必要な検査

脳震盪による後遺障害の適切な認定のためには、包括的な医学的評価が不可欠です。

神経学的検査

意識レベルの評価(Glasgow Coma Scale) 脳神経機能検査 運動機能・感覚機能検査 反射検査 平衡機能検査(重心動揺検査など)

神経心理学的検査

  • ■全般的認知機能検査WAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査) MMSE(Mini-Mental State Examination) MoCA(Montreal Cognitive Assessment)
  • ■注意力・集中力検査CAT(Clinical Assessment for Attention) TMT(Trail Making Test) CPT(Continuous Performance Test)
  • ■記憶力検査WMS-R(ウェクスラー記憶検査) RBMT(Rivermead Behavioural Memory Test)
  • ■遂行機能検査BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome) WCST(Wisconsin Card Sorting Test)

私の経験では、これらの検査を総合的に実施することで、脳震盪による微細な認知機能障害を客観的に評価することが可能となります。。

画像診断

  • ■従来の画像検査CT:急性期の出血や浮腫の除外 MRI:微細な脳損傷の検出
  • ■先進的画像検査拡散テンソル画像(DTI):白質線維の損傷評価 機能的MRI(fMRI):脳機能の変化評価 SPECT:脳血流の評価合

これらの先進的な画像検査により、従来では検出困難であった微細な脳損傷を可視化できる可能性があります。

前庭機能検査

脳震盪後のめまいや平衡感覚障害の評価には、以下の検査が有用です:

重心動揺検査 眼振検査 カロリックテスト 回転検査

特に、前庭機能障害は日常生活に大きな支障をきたすため、詳細な評価が重要です。

損害賠償の算定と請求範囲

脳震盪による後遺障害に対する損害賠償は、認定された等級に応じて以下のように算定されます。

後遺障害慰謝料

自賠責基準における各等級の慰謝料額:

5級:約600万円 7級:約420万円 9級:約249万円 12級:約94万円 14級:約32万円

ただし、弁護士基準を適用した場合、これらの金額を大幅に上回る補償を獲得できる可能性があります。最近担当した9級認定のケースでは、弁護士基準により約700万円の後遺障害慰謝料を獲得しました。

逸失利益

各等級の労働能力喪失率:

5級:79% 7級:56% 9級:35% 12級:14% 14級:5%

脳震盪による後遺障害では、特に知的労働者において労働能力への影響が大きくなる傾向があります。プログラマーや研究職など高度な集中力を要する職業の場合、軽微な認知機能障害でも大きな労働能力の低下をきたすことがあります。

将来の治療費

脳震盪後症候群の治療には、以下のような継続的な医療費が必要となる場合があります:

神経内科・脳神経外科での定期診察 神経心理学的リハビリテーション 薬物療法(頭痛薬、めまい薬、抗うつ薬など) 理学療法・作業療法

休業損害

脳震盪による症状により就労不能期間が生じた場合、その期間の収入減少分を休業損害として請求できます。特に、復職後も以前と同様の業務遂行が困難な場合には、減収分についても損害として認められる可能性があります。

社会復帰支援と福祉制度の活用

脳震盪による後遺障害を負った場合、医学的治療とともに社会復帰支援が重要となります。

高次脳機能障害支援事業

各都道府県で実施されている高次脳機能障害支援事業により、以下のサービスを受けることができます:

専門的な相談支援 社会復帰支援プログラム 家族支援・研修 関係機関との連携調整

障害者雇用制度の活用

精神障害者保健福祉手帳を取得することで、障害者雇用枠での就労が可能となります。脳震盪による認知機能障害は外見上分かりにくいため、職場での理解と配慮を得るために手帳の取得が有効な場合があります。

職業リハビリテーション

障害者職業センターでの支援内容:

職業評価 職業準備支援 ジョブコーチ支援 事業主支援

特に、復職を目指す場合には、段階的な業務復帰プログラムが有効です。

自立支援医療制度

精神通院医療として、脳震盪後の精神症状の治療費について自己負担額の軽減を受けることができます。

予防と早期対応の重要性

脳震盪による後遺障害を最小限に抑えるためには、適切な初期対応と予防策が重要です。

受傷直後の対応

  • ■安静の確保受傷後24-48時間は身体的・認知的安静を保つことが推奨されます。激しい運動や集中を要する作業は避け、十分な休息を取ることが重要です。
  • ■段階的復帰症状が改善してきた場合でも、段階的に活動レベルを上げていくことが推奨されます。急激な活動再開は症状の悪化を招く可能性があります。

セカンドインパクト症候群の予防

脳震盪からの回復が不十分な状態で再度頭部外傷を受けると、致命的な脳浮腫を生じるセカンドインパクト症候群のリスクがあります。完全に症状が消失するまでは、頭部外傷のリスクがある活動を避けることが重要です。

長期フォローアップ

脳震盪後は長期的な経過観察が必要です。症状の変化や新たな症状の出現に注意し、必要に応じて専門医への相談を継続することが推奨されます。

法的対応における重要ポイント

脳震盪による後遺障害の法的対応では、以下の点が特に重要となります。:

因果関係の立証

脳震盪は軽微な外傷で発症することが多く、受傷機転と症状の因果関係の立証が課題となります。以下の要素が重要です:

受傷直後の症状記録 継続的な医療受診の記録 症状の一貫性 他原因の除外

症状固定時期の判断

脳震盪による症状は長期間にわたって変動することがあり、症状固定時期の判断が困難な場合があります。一般的には受傷から6カ月から1年程度で症状固定とされることが多いですが、個別の症状の推移を慎重に評価する必要があります。

複数の専門家による評価

脳震盪による後遺障害の適切な評価のためには、以下の専門家の連携が重要です:

脳神経外科医・神経内科医 神経心理士 理学療法士・作業療法士 精神科医 法医学専門医

私が担当した症例では、これらの専門家による包括的な評価により、当初は軽微とされていた症状が適切に認定され、十分な補償を獲得できたケースが多数あります。

まとめ:脳震盪を軽視しない適切な対応を

脳震盪は「軽い頭部外傷」として軽視されがちですが、適切な対応を怠ると深刻な後遺障害が残存する可能性があります。近年の医学研究により、脳震盪による長期的な影響が明らかになってきており、早期の適切な診断・治療・支援の重要性が再認識されています。

後遺障害認定においては、症状の主観性や画像所見の乏しさなどの課題がありますが、詳細な神経心理学的検査と専門家による包括的な評価により、適切な認定を獲得することが可能です。また、先進的な画像検査技術の発展により、従来では検出困難であった微細な脳損傷を可視化できる可能性も広がっています。

脳震盪による後遺障害は、患者の生活の質や就労能力に大きな影響を与える可能性があります。適切な医学的評価と法的対応により、必要な支援と補償を確保し、患者の社会復帰と生活再建を支援することが重要です。

脳震盪を受けた場合は、症状が軽微であっても専門医による適切な評価を受け、必要に応じて法的専門家への相談を検討することをお勧めします。早期の適切な対応により、より良い予後と十分な支援の獲得が可能となるのです。