事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 女性 | |
| 年齢 | 20代 | |
| 職業 | 認可保育所勤務の保育士(保育士資格・幼稚園教諭二種免許所持) | |
| 後遺障害等級 | 10級11号、12級13号 併合10級 | |
| 受傷部位 | 右寛骨臼後壁骨折、右股関節後方脱臼、右股関節可動域制限、右大腿骨頭壊死(無腐性壊死)、右股関節慢性疼痛 | |
| 事故の態様 | 名古屋市昭和区の市道において、乗用車の助手席に同乗中の被害者が、前方不注意の加害車両による追突を受け、ダッシュボードに右膝を強打 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 1,200万円 | – |
| 休業損害 | 180万円 | 420万円 |
| 入通院慰謝料 | 170万円 | 310万円 |
| 逸失利益 | 600万円 | 1,900万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 190万円 | 550万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 1,200万円 | 3,200万円 |
交通事故の状況
名古屋市昭和区の市道において、乗用車の助手席に同乗中の被害者が、後方から前方不注意のまま接近した加害車両による追突を受けました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。強い衝撃により被害者の右膝がダッシュボードに激突し、いわゆる「ダッシュボード外傷」のメカニズムで右股関節に後方からの軸圧が加わりました。
救急搬送先での骨盤レントゲンおよび造影CT検査で右寛骨臼後壁の粉砕骨折と股関節後方脱臼が確認され、緊急手術(骨折観血的整復固定術・プレート固定)が施行されました。約3週間の入院後、約9か月間の通院リハビリを継続しましたが、骨折部の良好な癒合が得られなかったため、受傷から7か月後に右大腿骨頭の無腐性壊死(大腿骨頭壊死)が判明しました。
その後も保存療法を継続しましたが、右股関節の可動域制限と慢性疼痛が残存した状態で症状固定となりました。
相談内容
事故から1年3か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は認可保育所に勤務する保育士として、0〜5歳の乳幼児の保育・教育を担当していました。
日常業務においては、乳幼児の抱っこ・おんぶ・着替え介助・床上での遊び・しゃがみ込みでの目線合わせ・園庭での追いかけっこなど、股関節に高い負荷がかかる動作を一日中繰り返す必要があります。右股関節の可動域制限により、床へのしゃがみ込み動作・乳幼児の抱き上げ・長時間の立位歩行が困難となり、担当クラスの保育業務を継続することができなくなりました。
保険会社の提示では、股関節機能障害は認めたものの保育士という職業への影響が過小評価され、また大腿骨頭壊死の将来的な人工股関節置換術の費用も考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、股関節専門の整形外科医の協力を得て、右股関節の可動域を詳細に測定しました。屈曲が健側120度に対して患側55度、外転が健側45度に対して患側15度と健側の2分の1以下であることを記録し、10級11号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」の認定を受けました。
さらに、MRIおよびCT検査で大腿骨頭壊死の範囲と骨頭の圧潰所見を記録し、将来的に人工股関節置換術が必要となる可能性を高度の蓋然性で認めさせるとともに、右股関節の慢性疼痛については12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」の認定を受け、併合10級としました。
将来費用として、人工股関節置換術(1回目・約150万円)および人工関節の耐用年数(15〜20年)を踏まえた2回目の置換術費用(約150万円)と手術後のリハビリ費用を合わせ、約350万円の将来治療費を算定しました。
その上で、保育士という職業は、乳幼児の抱っこ・おんぶ・床でのしゃがみ込み・追いかけっこなど、股関節の完全な可動性と持久力が不可欠な業務であることを、勤務先保育所の所長の陳述書と保育業務マニュアルにより詳細に立証しました。右股関節の機能障害により乳幼児クラスの担当継続が不可能となり、文書管理業務への配置転換が余儀なくされたことを明らかにし、併合10級の通常の労働能力喪失率(27%)を上回る35%の喪失率を主張しました。
股関節機能障害と保育士という職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約2.7倍の3,200万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・寛骨臼骨折による股関節機能障害は、屈曲・外転・内転など各方向の可動域を正確に測定し、健側との比較で2分の1以下の制限を記録することで、10級11号の認定を確実に受けることができます。
- ・寛骨臼骨折後の大腿骨頭壊死(無腐性壊死)は、MRIおよびCTで壊死範囲を正確に記録し、将来的な人工股関節置換術の必要性を専門医の意見書で立証することで、手術費用を将来治療費として請求することができます。
- ・保育士・幼稚園教諭・介護福祉士など、乳幼児・高齢者の抱き上げや床での介助動作が不可欠な職業の場合、股関節の機能障害は業務の根幹を奪うものであり、具体的な業務動作と担当クラスの変更を立証することで、通常の等級基準を上回る労働能力喪失率を認めさせることができます。
- ・ダッシュボード外傷による股関節後方脱臼・寛骨臼骨折は、受傷直後の救急搬送時のCTによる粉砕骨折の記録と、受傷メカニズム(軸圧の方向)を正確に医学的に説明することで、後遺障害との因果関係を確実に立証できます。
- ・大腿骨頭壊死の診断が受傷後数か月を経てから判明した場合でも、受傷時の骨折・脱臼とその後の血流障害という医学的メカニズムを専門医の意見書で示すことで、事故との因果関係を立証できます。
- ・股関節骨折・股関節脱臼の事案では、股関節専門の整形外科医との連携が不可欠であり、可動域の精密測定・骨頭壊死の経時的な画像評価・将来の人工関節置換術の見通しを包括的に立証することが適正な補償を受けるための鍵となります。
担当弁護士 石田大輔
