事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 女性 | |
| 年齢 | 30代 | |
| 職業 | 歯科医院勤務の歯科衛生士(歯科衛生士免許・歯周病認定歯科衛生士資格所持) | |
| 後遺障害等級 | 12級6号、14級9号 併合12級 | |
| 受傷部位 | 左橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)、左手関節可動域制限、左手指把持力低下、左手関節慢性疼痛 | |
| 事故の態様 | 名古屋市天白区の交差点において、信号待ち停車中の被害者車両に、後方から不注意で走行してきた加害車両が追突 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 250万円 | – |
| 休業損害 | 60万円 | 130万円 |
| 入通院慰謝料 | 55万円 | 105万円 |
| 逸失利益 | 95万円 | 480万円 |
| 後遺障害慰謝料 | 14万円 | 100万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 250万円 | 850万円 |
交通事故の状況
名古屋市天白区の交差点において、赤信号で停車中の被害者車両に、前方不注意の加害車両が後方から追突しました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。衝撃により被害者の左手がダッシュボードとドア部分に叩きつけられ、左手関節に強い捻転力が加わりました。
救急病院でのレントゲン検査で左橈骨遠位端骨折(コーレス骨折・関節内骨折型)が確認され、徒手整復・ギプス固定による保存療法が行われました。6週間のギプス固定除去後も左手関節の可動域制限と手指の把持力低下が残存し、約6か月間の通院リハビリを行いましたが、症状固定時においても手関節の背屈・掌屈の制限と慢性疼痛が残存しました。
相談内容
事故から約10か月が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は歯科医院に勤務する歯科衛生士として、歯周基本治療(スケーリング・ルートプレーニング)、歯周外科後のメインテナンス、フッ化物塗布、ブラッシング指導など、両手の巧みな操作と持続的な手関節の背屈維持が不可欠な業務を日常的に行っていました。
左手関節の可動域制限により、超音波スケーラーやキュレットスケーラーを口腔内で正確に操作するための手首の角度が維持できなくなり、施術中に手関節の疼痛が誘発されるようになりました。1日あたりの施術可能患者数が約30%減少し、歯周病認定歯科衛生士として専門性の高い歯周外科補助業務への従事が困難となりました。
保険会社の提示では後遺障害等級が14級9号のみとされ、歯科衛生士という精密手技を要する職業への影響が全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、手外科専門医の協力を得て、左手関節の可動域を精密に測定しました。背屈が健側60度に対して患側30度、掌屈が健側55度に対して患側28度とそれぞれ健側の2分の1以下に制限されていることを記録しました。
さらに、関節内骨折後の骨癒合不全による手関節の変形をCT検査で確認し、12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」の認定を受けました。また、手関節の慢性疼痛については、CT画像で確認された関節内の骨癒合不全を根拠として14級9号「局部に神経症状を残すもの」の認定を受け、併合12級としました。
その上で、歯科衛生士という職業は、超音波スケーラー・キュレットスケーラーの精密操作、口腔内での細かな器具操作、施術中の体位保持など、手関節の完全な可動域と手指の繊細な巧緻性が不可欠な業務であることを、勤務先歯科医院の院長の陳述書と実際の施術動画により詳細に立証しました。左手関節の可動域制限と疼痛により担当患者数が約30%減少し、専門性の高い歯周外科補助業務への従事が困難になったことを明らかにし、通常の12級の労働能力喪失率(14%)を上回る20%の喪失率を主張しました。
手関節機能障害と歯科衛生士という職業特性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約3.4倍の850万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)による手関節の可動域制限は、背屈・掌屈・橈屈・尺屈の各方向を精密に測定し、健側との比較で2分の1以下の制限を記録することで、14級9号から12級6号へと等級を適切に引き上げることができます。
- ・保険会社は橈骨遠位端骨折を「よくある手首の骨折」として軽視し、14級9号のみの認定にとどめることがありますが、CT検査で関節内骨折後の骨癒合不全や変形を客観的に記録することで、12級6号「機能障害」の認定を確実に得ることができます。
- ・歯科衛生士・歯科技工士・外科医・ピアニストなど、手関節と手指の精密な巧緻性が職業上不可欠な場合、可動域制限による施術への影響(患者数の減少・専門業務の制限)を院長の陳述書と施術動画で具体的に立証することで、通常の等級基準を大幅に上回る労働能力喪失率を認めさせることができます。
- ・追突事故による橈骨遠位端骨折は、追突の衝撃と骨折発生のメカニズム(ダッシュボードや車内構造物への衝突)を詳細に記録することで、事故との因果関係を明確にし、後遺障害認定を確実なものにすることが重要です。
- ・軽傷・中程度の事案でも、職業上の専門性と後遺障害の影響を具体的に立証することで、通常の賠償額の2〜3倍以上の増額が実現できます。「軽い骨折だから大した補償は受けられない」という誤解を持たず、専門弁護士に早期に相談することが重要です。
- ・橈骨遠位端骨折の事案では、手外科専門医との連携による精密な可動域測定とCTによる骨折形態の評価が不可欠であり、関節内骨折の有無・骨癒合の状態・手指の巧緻性への影響を多角的に立証することが適正な補償を受けるための鍵となります。
担当弁護士 石田大輔
