上腕骨骨折による肘関節機能障害で2800万円の賠償獲得事案 - 名古屋の交通事故弁護士

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上腕骨骨折による肘関節機能障害で、美容師の職業特性を考慮して2800万円の賠償を獲得した事案

事故の概要と被害状況

被害者情報

性別

女性

年齢

30代

職業

美容師(スタイリスト)

後遺障害等級

10級10号

受傷部位

右上腕骨顆上骨折、右肘関節機能障害、可動域制限、握力低下

事故の態様

名古屋市中区の交差点において、原付バイクで直進中の被害者が、右折してきた乗用車に衝突される

賠償金額の比較

項目受任前受任後
保険会社からの提示・裁判950万円
休業損害180万円380万円
入通院慰謝料190万円260万円
逸失利益520万円1650万円
後遺症障害慰謝料60万円550万円
医療費等を含む賠償総額950万円2800万円

交通事故の状況

名古屋市中区の交差点において、原付バイクで直進中の被害者が、対向車線から右折してきた乗用車に衝突されました。
過失割合は被害者15:加害者85です。衝突の衝撃で転倒し、右腕から地面に落下して右上腕骨顆上骨折を負いました。

救急搬送され、CT検査により関節近傍の粉砕骨折が確認されました。受傷翌日に観血的整復固定術を施行し、プレートとスクリューによる内固定を行いました。

術後は約2週間の入院加療を受け、その後10か月間のリハビリテーション(実通院日数112日)を継続しましたが、右肘関節の可動域制限と握力低下、手指の巧緻性障害が残存し、症状固定となりました。症状固定時のレントゲン検査では骨癒合は得られていましたが、肘関節の変形性関節症の初期変化が認められました。

相談内容

症状固定後、保険会社から示談提示がありました。被害者は名古屋市内の人気美容室でスタイリストとして勤務しており、カット、カラー、パーマなどの施術を1日平均7名の顧客に提供していました。美容師の業務は、シザー(ハサミ)やレザー、ブラシ、ドライヤーなどの器具を長時間使用し、肘関節の屈曲・伸展動作と手指の細かい動作を繰り返す必要があります。

特に、カット技術では肘関節を120度以上屈曲させた状態で精密な角度調整を行い、シザーを正確にコントロールする必要があります。しかし、右肘関節の可動域制限(屈曲が健側の65%、伸展が健側の70%)により、頭頂部や後頭部のカットで肘が十分に上がらず、理想的な角度でシザーを入れることができなくなりました。

また、握力低下(健側28kg、患側18kg)により、シザーを長時間保持することが困難となり、1人あたりのカット時間が平均45分から75分に延長しました。さらに、ドライヤーを持ち上げる動作で肘関節に疼痛が生じ、ブロー作業が特に苦痛となりました。

この結果、1日の担当顧客数が平均7名から4名に減少し、カラーやパーマなど肘関節への負担が大きい施術は他のスタッフに依頼せざるを得なくなりました。美容室は勤務継続を認めてくれましたが、指名料収入が含まれる歩合給が大幅に減少し、月収が約40%減少しました。

しかし、保険会社の提示では、10級10号は認定されたものの、「基本的な美容業務は可能であり、労働能力への影響は限定的」として低い労働能力喪失率で算定され、美容師特有の肘関節使用頻度の高さや手指の巧緻性の重要性が全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。

成果の概要

まず、整形外科専門医の協力を得て、右肘関節の可動域測定を詳細に実施し、屈曲が健側145度に対して患側95度(健側の65.5%)、伸展が健側0度に対して患側−15度(15度の伸展制限)と、屈曲・伸展の両方向で著しい制限があることを記録しました。

さらに、握力測定では健側28kgに対して患側18kg(健側の64%)、ピンチ力測定では健側6.5kgに対して患側4.2kg(健側の65%)と、手指の把持力も顕著に低下していることを確認し、10級10号「一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」の医学的根拠を強化しました。

また、肘関節の動作解析により、シザー操作時には肘関節を110〜130度の範囲で保持する必要があるが、患側では95度までしか屈曲できないため、頭頂部や後頭部のカットで代償動作(肩関節の過度な挙上や体幹の側屈)を強いられ、施術精度が低下するとともに頸部や肩に二次的な疼痛が生じることを記録しました。その上で、美容師という職業の特性を詳細に立証しました。

具体的には、美容師の1日の業務内容を時系列で示し、カット(1日平均7名×45分)、カラー塗布(1日平均3名×30分)、ブロー(1日平均7名×15分)など、肘関節を屈曲位で保持しながら手指の細かい操作を連続的に行う業務特性を説明しました。

また、使用する器具(シザー、レザー、ロッドブラシ、ドライヤー等)の実物写真と操作方法を示し、これらの器具を正確にコントロールするためには肘関節の可動域120度以上と握力25kg以上が不可欠であることを、美容業界の専門誌の記事と美容師養成学校の教本を引用して説明しました。

さらに、実際の顧客カルテ(事故前と事故後の比較)により、1日の担当顧客数が平均7名から4名に減少し、カット単価の高い顧客や技術的に難易度の高いスタイルを他のスタッフに譲らざるを得なくなっていることを数値で示しました。

加えて、美容室の店長の陳述書により、美容師業務においては肘関節の可動域と手指の巧緻性が技術力の根幹であり、被害者の施術速度と精度の低下は明白であること、指名客の一部が他のスタイリストに移行していることを証明しました。

これらの立証により、10級10号の通常の労働能力喪失率27%を、美容師という職業特性に照らして40%まで引き上げることを主張しました。また、30代という若年であり、美容師として技術を磨きキャリアアップする時期に肘関節機能障害を負ったことは、将来的な独立開業の可能性も含めた長期的なキャリアの喪失を意味することを強調し、労働能力喪失期間を症状固定時から67歳までの全期間を主張しました。

さらに、変形性関節症の進行により将来的に人工肘関節置換術が必要になる可能性があることを整形外科医の意見書により指摘し、将来の治療費として約300万円を算定しました。職業特性と年齢、将来の治療費を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約2.9倍の2800万円の賠償を獲得しました。

成果のポイント

  • ・上腕骨顆上骨折による肘関節機能障害は、肘関節の可動域を屈曲・伸展の両方向で詳細に測定し、握力・ピンチ力も併せて測定することで、10級10号の医学的根拠を強化できます。
  • ・美容師、理容師、調理師、歯科医師など、肘関節を屈曲位で保持しながら手指の細かい操作を連続的に行う職業の場合、肘関節機能障害は施術速度と精度の両方に影響を与えるため、具体的な業務内容と実際の支障を詳細に立証することが重要です。
  • ・顧客カルテや施術記録により、担当顧客数の減少や施術時間の延長を数値データで示すことで、業務効率の低下を客観的に証明できます。
  • ・美容師の場合、指名客の維持と技術向上がキャリア形成の核心であるため、肘関節機能障害による技術力の低下は将来的な独立開業の可能性も含めた長期的影響があることを主張できます。
  • ・上腕骨顆上骨折後の変形性関節症の進行リスクについて、整形外科医の意見書により将来の人工関節置換術の可能性を指摘し、将来治療費を算定することが重要です。
  • ・肘関節機能障害の事案では、動作解析により代償動作と二次的な疼痛の発生を記録し、単なる可動域制限だけでなく業務遂行における実質的な支障を多角的に立証することが、適正な補償獲得の鍵となります。