事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 女性 | |
| 年齢 | 40代 | |
| 職業 | 歯科衛生士 | |
| 後遺障害等級 | 14級9号 | |
| 受傷部位 | 頚椎捻挫、頚部痛、両上肢痺れ、握力低下 | |
| 事故の態様 | 名古屋市東区の交差点において、青信号で直進中の被害者車両に、対向右折車両が衝突 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 120万円 | – |
| 休業損害 | 25万円 | 95万円 |
| 入通院慰謝料 | 65万円 | 110万円 |
| 逸失利益 | 0円 | 185万円 |
| 後遺症障害慰謝料 | 30万円 | 110万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 120万円 | 480万円 |
交通事故の状況
青信号で交差点を直進中の被害者車両に、対向車線から右折してきた加害車両が衝突しました。過失割合は被害者20:加害者80です。衝突の衝撃で頚部が強く前後に振られ、頚椎捻挫を負いました。
受傷直後から頚部痛に加えて両手指の痺れと握力低下が出現し、翌日から整形外科への通院を開始しました。MRI検査では明らかな椎間板ヘルニアや神経圧迫所見は認められませんでしたが、頚椎の生理的前彎が消失し、ストレートネックの状態が確認されました。
約8か月間の通院治療(実通院日数95日)を継続しましたが、頚部痛と両上肢の痺れ、握力低下が残存し、症状固定となりました。
相談内容
症状固定後、保険会社から示談提示がありました。被害者は歯科クリニックで歯科衛生士として勤務しており、患者の口腔内での細かい器具操作、スケーリング(歯石除去)、ブラッシング指導など、両手の細かい動作と一定の握力を必要とする業務を日常的に行っていました。
しかし、頚椎捻挫後の両手指の痺れと握力低下により、器具を持つ手が震える、長時間の施術で手が疲れやすい、細かい操作に時間がかかるなどの支障が生じました。特に、スケーリング時には一定の力で器具を保持する必要がありますが、握力低下により患者1人あたりの施術時間が約1.5倍に延長し、1日に診られる患者数が減少しました。
勤務先は業務の継続を認めてくれましたが、担当患者数の削減により実質的な収入が約30%減少しました。しかし、保険会社の提示では後遺障害14級9号は認定されたものの、「軽微な神経症状であり、就労への影響は限定的」として逸失利益がゼロとされ、また職業特性による具体的な支障も考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、整形外科専門医の協力を得て、頚椎のMRI検査に加えて、神経学的検査(ジャクソンテスト陽性、スパーリングテスト陽性)、握力測定(健側30kg、患側22kg)、ピンチ力測定(両側とも健常値の70%)を実施し、頚椎捻挫による神経根刺激症状と両上肢の筋力低下を客観的に記録しました。
さらに、頚椎X線動態撮影により、頚椎の可動域が正常の約60%まで制限されていることを確認し、14級9号「局部に神経症状を残すもの」の医学的根拠を強化しました。その上で、歯科衛生士という職業の特性を詳細に立証しました。
具体的には、日常業務で使用する歯科器具(スケーラー、キュレット、ミラー等)の実物写真と操作方法を示し、これらの器具を正確に操作するためには両手の細かい協調運動と一定の握力(最低25kg以上)が不可欠であることを説明しました。
また、実際の施術時間の記録(事故前と事故後の比較)により、患者1人あたりの施術時間が平均40分から60分に延長し、1日の担当患者数が8名から5名に減少していることを数値で示しました。さらに、勤務先の歯科医院長の陳述書により、歯科衛生士業務における手指の機能の重要性と、被害者の業務効率低下が客観的事実であることを証明しました。
これらの立証により、14級9号の通常の労働能力喪失率5%を歯科衛生士という職業特性に当てはめ、労働能力喪失期間を10年(通常は5年程度)として主張しました。職業特性による具体的な支障を医学的データと業務記録の両面から詳細に立証し、最終的に約4倍の480万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・頚椎捻挫による神経症状は、神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテスト等)と握力測定、ピンチ力測定などの客観的データを組み合わせることで、14級9号の医学的根拠を強化できます。
- ・14級9号は「軽微な後遺障害」として逸失利益を認めない保険会社提示が多いですが、職業特性による具体的な支障を立証することで、相当額の逸失利益を獲得することが可能です。
- ・歯科衛生士、美容師、調理師、楽器演奏者など、手指の細かい動作と握力を必要とする職業の場合、頚椎捻挫による上肢の痺れと握力低下は業務遂行に重大な影響を与えるため、業務内容の詳細と実際の支障を具体的に示すことが重要です。
- ・施術時間の記録や担当患者数の変化など、業務効率の低下を数値データで示すことで、労働能力への影響を客観的に証明できます。
- ・14級9号の労働能力喪失期間は通常3〜5年程度とされますが、職業特性を立証することで10年程度まで延長を認めさせることができ、逸失利益が大幅に増額されます。
- ・頚椎捻挫の事案では、受傷直後からの継続的な通院と神経学的検査の実施、そして職業特性の詳細な説明が、14級9号認定後の適正な補償獲得の鍵となります。
