事故の概要と被害状況
被害者情報
| 性別 | 男性 | |
| 年齢 | 30代 | |
| 職業 | 公認会計士 | |
| 後遺障害等級 | 別表第二 3級3号 | |
| 受傷部位 | びまん性軸索損傷、前頭葉脳挫傷、高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害) | |
| 事故の態様 | 一宮市の交差点において、赤信号を無視した加害車両が、青信号で横断歩道を歩行中の被害者に衝突 | |
賠償金額の比較
| 項目 | 受任前 | 受任後 |
| 保険会社からの提示・裁判 | 4500万円 | – |
| 休業損害 | 650万円 | 1400万円 |
| 入通院慰謝料 | 520万円 | 680万円 |
| 逸失利益 | 2800万円 | 7200万円 |
| 後遺症障害慰謝料 | 530万円 | 1900万円 |
| 医療費等を含む賠償総額 | 4500万円 | 1億800万円 |
交通事故の状況
横断歩道を歩行中の被害者が、赤信号を無視して交差点に突入してきた加害車両に衝突されました。被害者に過失はなく、過失割合は0:100です。事故により頭部を強打し、意識消失した状態で救急搬送されました。
CT・MRI検査により、前頭葉の脳挫傷とびまん性軸索損傷が確認され、約2週間の意識障害が持続しました。ICUでの集中治療を経て意識は回復しましたが、記憶障害、注意障害、遂行機能障害などの高次脳機能障害が残存しました。
約3か月の入院リハビリテーションを受け、身体機能は概ね回復しましたが、認知機能の障害が顕著に残り、症状固定となりました。
相談内容
事故から2年が経過し、症状固定となった時点で保険会社から示談提示がありました。被害者は大手監査法人に勤務する公認会計士として、企業の財務諸表監査、内部統制監査、IPO支援などの高度な専門業務を担当し、年収900万円を得ていました。公認会計士の業務は、膨大な会計データの分析、複雑な会計基準の適用判断、監査調書の作成、クライアントとの高度な議論など、極めて高い認知機能を必要とします。
しかし、高次脳機能障害により、新しい情報の記憶保持が困難(10分前の会話内容を忘れる)、複数の業務を並行して処理できない、監査計画の立案と遂行ができない、会計基準の複雑な適用判断で誤りが多発するなどの支障が生じました。監査法人は復職を認めましたが、簡易な事務作業のみの担当となり、公認会計士としての専門業務は一切行えない状態となりました。
給与も年収400万円程度に減少し、実質的に公認会計士としてのキャリアを失いました。さらに、日常生活でも予定の管理ができない、買い物リストを忘れる、複数の用事を同時に処理できないなどの支障があり、妻の日常的なサポートが必要な状態でした。
しかし、保険会社の提示では、「身体機能は回復しており、簡易な事務作業は可能」として低い労働能力喪失率で算定され、また高度な専門職からの転落という深刻な影響や、将来的な就労支援の必要性も全く考慮されていなかったため、弁護士に相談されました。
成果の概要
まず、神経内科専門医および神経心理学専門家の協力を得て、詳細な神経心理学的検査を実施しました。WAIS-IV知能検査では、言語理解は正常範囲でしたが、ワーキングメモリー指標と処理速度指標が著しく低下(偏差値で健常者の−2SD以下)していました。WMS-R記憶検査では、視覚性記憶と言語性記憶の両方で遅延再生が著しく障害されており、新しい情報の記憶保持が極めて困難であることが確認されました。
また、BADS遂行機能検査では、計画立案、問題解決、認知的柔軟性のすべての項目で障害域の結果が示されました。これらの客観的検査データにより、別表第二3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」の認定を受けました。その上で、公認会計士という職業の特性を詳細に立証しました。
具体的には、財務諸表監査において必要とされる認知機能として、膨大な会計データ(数百〜数千行の試算表、補助簿等)を正確に記憶し分析する記憶力、複数の監査手続きを同時並行で進める注意の分配能力、監査計画を立案し実行する遂行機能、複雑な会計基準を状況に応じて適用する判断力などが不可欠であることを、実際の監査調書のサンプルと業務フローにより説明しました。
また、復職後の業務記録により、簡単なデータ入力作業でも頻繁にミスが発生し、上司の継続的な確認が必要であること、公認会計士としての専門業務は一切行えない状態であることを詳細に記録しました。さらに、監査法人の人事担当者と直属の上司の陳述書により、公認会計士としての業務遂行能力を完全に喪失しており、現在の事務作業も支援があって初めて可能な状態であることを証明しました。
これらの立証により、3級3号の労働能力喪失率100%を前提とし、基礎収入は事故前の年収900万円に将来の昇給を見込んだ年収1100万円を主張しました。さらに、30代という若年での高次脳機能障害により、就労可能年数が極めて長い(約35年)こと、また将来的には現在の簡易な事務作業すら困難になり、就労継続支援施設等での支援が必要になる可能性が高いことを、神経内科医の意見書により指摘し、将来の就労支援費用として約800万円を算定しました。
また、日常生活における妻のサポート(予定管理、服薬管理、家事の指示等)が不可欠であることから、近親者介護費用(日額4000円)として約2000万円を算定しました。若年での高度専門職からの転落という壊滅的影響と、生涯にわたる支援の必要性を総合的に立証し、訴訟を提起して最終的に約2.4倍の1億800万円の賠償を獲得しました。
成果のポイント
- ・高次脳機能障害は、神経心理学的検査(WAIS-IV、WMS-R、BADS等)により、記憶、注意、遂行機能などの認知機能の障害を客観的に立証することで、適切な等級認定(3級3号)を受けることができます。
- ・びまん性軸索損傷は、受傷直後のMRI検査(特にDWI、FLAIR画像)で点状出血巣を確認し、さらに慢性期のMRI検査で脳萎縮の進行を記録することが、高次脳機能障害の器質的基盤を証明する上で重要です。
- ・公認会計士、弁護士、医師、研究者など、高度な認知機能を必要とする専門職の場合、高次脳機能障害により専門業務の遂行が完全に不可能となることを、実際の業務内容と復職後の具体的な支障から詳細に立証することが重要です。
- ・若年者(30代〜40代)の高次脳機能障害の場合、就労可能年数が30年以上と極めて長く、また高度専門職からの転落による生涯収入の喪失が巨額になるため、逸失利益が7000万円を超える高額になります。
- ・高次脳機能障害では、将来的に症状が進行して就労支援施設等での支援が必要になる可能性があるため、神経内科医の意見書に基づいて将来の就労支援費用を請求することが重要です。
- ・日常生活における予定管理、服薬管理、家事の指示など、近親者による継続的なサポートが不可欠な場合、近親者介護費用を長期間にわたって算定することで、相応の将来介護費を認めさせることができます。
- ・高次脳機能障害の事案では、神経内科専門医および神経心理学専門家との緊密な連携が不可欠であり、受傷直後からの画像所見と症状固定時の詳細な神経心理学的検査、そして職業特性と日常生活への具体的影響を多角的に立証することが、適正な高額補償を受けるための基盤となります。
