自転車事故における見落とされがちな後遺障害の発見と適正補償獲得事例 - 名古屋の交通事故弁護士

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自転車事故における見落とされがちな後遺障害の発見と適正補償獲得事例

事故の概要と被害状況

被害者情報

性別

女性

年齢

60代

職業

パート従業員(スーパーマーケット勤務)

後遺障害等級

併合11級(14級9号と12級6号の併合)

受傷部位

右膝関節、頸部、腰部 自覚症状: 膝関節痛、可動域制限、頸部痛、腰痛、しびれ

事故状況

発生場所

名古屋市緑区の生活道路(信号のない交差点)

発生時間

夕方(午後5時頃)

事故形態

一時停止無視の自動車と自転車の出会い頭衝突

最終的な過失割合

加害者80%:被害者20%(自転車側の軽微な前方不注視)

賠償金額の比較

補償項目当初提示額解決後獲得額増額分
休業損害

15万円

85万円

+70万円

入通院慰謝料

80万円

150万円

+70万円

逸失利益

0円

420万円

+420万円

後遺障害慰謝料

0円

270万円

+270万円

将来治療費

0円

50万円

+50万円

賠償総額

95万円

975万円

+880万円

併合11級について

複数の後遺障害がある場合、最も重い等級を基準として「併合」の処理がなされます。本件では、膝関節の機能障害(12級6号「一下肢の三大関節中一関節の機能に障害を残すもの」)と神経症状(14級9号「局部に神経症状を残すもの」)が認定され、併合11級となりました。併合により、労働能力喪失率は20%として評価されます。

2. 当初の状況と見落とされていた問題点

被害者の受傷状況と初期治療

事故直後、被害者は救急搬送され、右膝関節の打撲と頸部・腰部の捻挫と診断されました。当初は骨折等の重篤な損傷はないとされ、約3ヶ月間の通院治療が行われました。

初期の治療内容

  • ・整形外科での週2回通院
  • ・物理療法(電気治療、温熱療法)
  • ・湿布薬と痛み止めの処方
  • ・軽度のリハビリテーション

見落とされていた重要な症状

被害者は治療開始から約2ヶ月後、以下のような症状の継続を医師に訴えていましたが、適切な評価を受けていませんでした:

膝関節の症状

  • ・正座ができない(膝が完全に曲がらない)
  • ・階段の昇降時に痛みと不安定感
  • ・長時間の立ち仕事で痛みが増強
  • ・しゃがみ込み動作ができない

頸部・腰部の症状

  • ・起床時の強い首の痛みとこわばり
  • ・長時間同じ姿勢でいると痛みが増強
  • ・右手の親指から中指にかけてのしびれ
  • ・腰から右足にかけての痛みとしびれ

保険会社の不適切な初期対応

加害者側の保険会社は、以下のような問題のある対応を行っていました:

症状の軽視

  • ・「レントゲンで骨に異常がないので軽いけが」という判断
  • ・60代女性の加齢変化として症状を軽視
  • ・自転車事故は軽微という先入観

治療の早期打ち切り圧力

  • ・3ヶ月経過時点で治療終了を促す
  • ・後遺障害の可能性について一切言及しない
  • ・低額な示談金での早期解決を提案

パート労働者への偏見

  • ・「パートなので休業損害は少額」という姿勢
  • ・高齢者の労働価値を過小評価
  • ・家事労働への影響を全く考慮しない

被害者は「年齢的に仕方ない」「自転車事故だから軽いけが」と思い込まされそうになりましたが、日常生活の不便さが改善しないことから、事故から約3ヶ月後に当事務所に相談されました。

3. 弁護士による症状の再評価と戦略構築

初回相談での症状の詳細な聞き取り

当事務所では、初回相談時に以下の詳細な聞き取りを実施しました:

1. 事故前後の生活状況の比較

  • ・事故前:フルタイムに近いパート勤務(週5日、1日7時間)
  • ・事故前:活発な趣味活動(ウォーキング、園芸、孫の世話)
  • ・事故後:勤務時間の大幅短縮(週3日、1日4時間)
  • ・事故後:趣味活動の大幅制限、家事への支障

2. 具体的な症状と日常生活への影響

  • ・膝関節:正座不可、階段昇降困難、しゃがみ込み不可
  • ・頸部:寝違えたような痛みの継続、手のしびれ
  • ・腰部:長時間の立位困難、前かがみの動作で痛み増強

3. 医学的所見の問題点の特定

  • ・膝関節の可動域制限について詳細な測定がなされていない
  • ・頸部・腰部のMRI検査が実施されていない
  • ・神経学的検査(筋力、反射、感覚)が不十分

適切な医学的評価のための戦略

弁護士は、適切な診断と治療のために以下の戦略を実施しました:

転院とセカンドオピニオンの活用

1. 専門医への転院

  • ・膝関節専門の整形外科医への紹介
  • ・脊椎専門医への紹介
  • ・MRI設備の充実した医療機関での精密検査

2. 詳細な検査の実施

  • ・膝関節のMRI検査による半月板損傷等の確認
  • ・頸椎・腰椎のMRI検査による椎間板ヘルニア等の確認
  • ・神経伝導検査による神経圧迫の客観的評価

3. 機能評価の実施

  • ・膝関節可動域の詳細な測定(ゴニオメーター使用)
  • ・筋力測定による機能低下の定量化
  • ・日常生活動作能力の詳細な評価

後遺障害認定に向けた証拠収集

症状の客観化と記録

1. 医学的証拠の収集

  • ・転院先での新たな画像所見の取得
  • ・機能検査結果の詳細な記録
  • ・複数の専門医による診断書の取得
  • ・治療効果の限界を示す医学的所見の蓄積

2. 日常生活への影響の立証

  • ・症状日記の作成(3ヶ月間の継続記録)
  • ・家事動作の制限を撮影した動画記録
  • ・職場での業務制限の具体的記録
  • ・家族による客観的な観察記録

3. 事故との因果関係の立証

  • ・事故前の健康状態に関する医療記録の収集
  • ・事故直後の症状記録の整理
  • ・症状の一貫性と継続性の証明
  • ・加齢変化との明確な区別

医学的再評価の結果と新たな診断

精密検査による新たな所見

転院先での詳細な検査により、以下の重要な所見が明らかになりました:

膝関節の詳細な評価

  • ・MRI検査:内側半月板の水平断裂と関節軟骨の損傷
  • ・可動域測定:屈曲130度(健側150度)、完全伸展不可
  • ・機能評価:膝関節の不安定性とロッキング症状
  • ・関節鏡検査の適応:保存的治療の限界

頸椎の詳細な評価

  • ・MRI検査:C5/6椎間板ヘルニアと神経根圧迫
  • ・神経伝導検査:正中神経の伝導速度低下
  • ・可動域制限:前屈・後屈ともに健常者の約70%
  • ・筋力低下:右手握力の約20%低下

腰椎の詳細な評価

  • ・MRI検査:L4/5椎間板ヘルニアと神経根圧迫
  • ・神経学的検査:右L5神経根症状陽性
  • ・可動域制限:前屈時の著明な制限
  • ・SLRテスト:右側45度で陽性

医師による後遺障害診断書の作成

専門医による適切な評価を基に、以下の内容で後遺障害診断書が作成されました:

膝関節機能障害(12級6号相当)

  • ・可動域制限:屈曲130度(正常150度)
  • ・機能障害:しゃがみ込み不可、正座不可
  • ・永続性:関節軟骨損傷により改善見込みなし

神経症状(14級9号相当)

  • ・頸部神経根症状:右上肢のしびれと筋力低下
  • ・腰部神経根症状:右下肢のしびれと感覚鈍麻
  • ・画像所見:MRIで明確な神経圧迫所見

後遺障害認定と損害額算定

自賠責保険での後遺障害認定

適切な医学的証拠と詳細な診断書の提出により、以下の認定を受けることができました:

認定結果

  • ・12級6号:右膝関節機能障害
  • ・14級9号:頸部・腰部神経症状
  • ・併合処理:併合11級

認定のポイント

  • ・画像所見と症状の一致性
  • ・事故との因果関係の明確性
  • ・症状の継続性と永続性
  • ・日常生活への具体的影響

損害額の詳細な算定

適切な医学的証拠と詳細な診断書の提出により、以下の認定を受けることができました:

1. 休業損害:85万円

  • ・パート収入の減少:月額15万円から8万円への減額
  • ・減収期間:12ヶ月間(症状固定まで)
  • ・家事労働の減少分も考慮した算定

2. 入通院慰謝料:150万円

  • ・通院期間:12ヶ月(実通院日数180日)
  • ・弁護士基準による算定
  • ・高齢者の症状の特殊性を考慮した増額

3. 後遺障害慰謝料:270万円

  • ・併合11級の基準額:420万円
  • ・過失相殺前の金額での算定

4. 逸失利益:420万円

  • ・基礎収入:年収180万円(パート収入)
  • ・労働能力喪失率:20%(併合11級)
  • ・労働能力喪失期間:67歳まで5年間
  • ・計算式:180万円×20%×4.212(ライプニッツ係数)

5. 将来治療費:50万円

  • ・定期的な通院費用(月1回×10年間)
  • ・注射治療費(年4回×10年間)
  • ・湿布薬等の薬剤費

保険会社との交渉過程

段階的な交渉戦略

第1段階:後遺障害認定の報告と損害額提示

  • ・弁護士受任後、後遺障害認定取得と同時に保険会社に対して以下の対応を行いました:
  • ・併合11級認定の報告と医学的根拠の詳細説明
  • ・弁護士基準に基づく損害額の算定書提出
  • ・60代女性の労働価値と家事労働価値の法的主張
  • ・症状の永続性と将来治療の必要性の医学的立証

第2段階:医学的証拠に基づく詳細な協議

  • ・保険会社からの照会に対して、以下の追加資料を提供しました:
  • ・複数の専門医による診断書と意見書
  • ・画像所見の詳細な説明資料
  • ・日常生活への影響を示すビデオ証拠
  • ・同種事案の裁判例と賠償基準の比較資料

第3段階:現実的な和解に向けた最終交渉

  • ・訴訟リスクと早期解決のメリットを比較考慮し、以下の条件で最終交渉を実施:
  • ・過失相殺後の現実的な損害額での提案
  • ・将来治療費の一部認定
  • ・示談書における責任条件の明確化

人身傷害保険の併用活用

本件では、被害者が加入していた人身傷害保険(限度額3,000万円)を効果的に活用しました:

過失相殺部分の補填

  • ・加害者側支払額:780万円(総損害975万円×80%)
  • ・人身傷害保険支払額:195万円(総損害975万円×20%)
  • ・被害者の実質受取額:975万円(100%補償の実現)

解決結果と被害者の生活改善

補償獲得による具体的な改善効果

1. 経済的安定の回復

  • ・減収分の補償により生活水準の維持が可能
  • ・将来治療費の確保により継続的な医療を受けられる環境
  • ・家族への経済的負担の軽減

2. 適切な治療継続の実現

  • ・専門医による定期的なフォローアップ
  • ・必要に応じたリハビリテーションの継続
  • ・痛み管理のための適切な薬物療法

3. 生活の質の改善

  • ・無理な労働からの解放
  • ・症状に合わせた生活スタイルの確立
  • ・家族の理解と協力体制の構築

社会復帰と生活再建

職場での配慮と継続雇用

  • ・勤務時間の調整(週3日、1日4時間)
  • ・立ち仕事の軽減と座り仕事への配置転換
  • ・同僚の理解と協力による職場環境の改善

家庭生活での工夫

  • ・家事動作の効率化と負担軽減
  • ・家族による分担体制の確立
  • ・福祉用具の活用による日常生活の支援

同様の状況にある被害者へのアドバイス

自転車事故被害者が注意すべきポイント

1. 軽微な事故と決めつけない

  • ・自転車事故でも重篤な後遺障害が残る可能性
  • ・「痛みが続く」「動きにくい」等の症状を軽視しない
  • ・高齢者は特に症状が長期化しやすいことを認識

2. 適切な医療機関での継続治療

  • ・症状に応じた専門医への受診
  • ・必要な検査(MRI等)の積極的な実施
  • ・セカンドオピニオンの活用

3. 症状と生活への影響の詳細な記録

  • ・痛みの部位、程度、頻度の記録
  • ・できなくなった動作の具体的な記録
  • ・仕事や家事への影響の詳細な記録

高齢者の交通事故における特有の課題

1. 症状の適切な評価

  • ・加齢変化と事故による症状の区別
  • ・高齢者の回復力の特殊性の考慮
  • ・既往症との関係の明確化

2. 労働能力と家事労働の評価

  • ・パート労働者の労働価値の適正評価
  • ・家事労働における高齢者の役割の重要性
  • ・将来の就労可能性の現実的な評価

3. 生活の質への影響の重視

  • ・趣味活動や社会参加への影響
  • ・家族関係や介護負担への影響
  • ・精神的な苦痛の適切な評価

弁護士相談のタイミングと準備

1. 相談の適切なタイミング

  • ・症状が3ヶ月以上継続している場合
  • ・保険会社から治療終了を促された場合
  • ・日常生活に継続的な支障がある場合

2. 相談前の準備事項

  • ・全医療記録の収集
  • ・症状日記の作成
  • ・事故前後の生活状況の整理
  • ・加入保険の内容確認

3. 弁護士選定のポイント

  • ・自転車事故事案の取扱実績
  • ・高齢者の後遺障害認定の経験
  • ・医学的知識と裁判例への精通

本事例から学ぶ重要な教訓

見落とされやすい後遺障害の発見

本件は、一見軽微に見える自転車事故でも、適切な医学的評価により重要な後遺障害が発見される典型例です。特に高齢者の場合、「年齢のせい」として片付けられがちな症状が、実際には事故による明確な後遺障害である可能性があります。症状の継続や生活への支障がある場合は、専門医による詳細な評価を受けることが重要です。

併合による後遺障害等級の向上

重度の後遺障害事案では、将来介護費用が損害の大きな部分を占めます。本件では2,500万円という高額な将来介護費用が認められましたが、これは医学的必要性を詳細に立証した結果です。保険会社は往々にして将来介護費用を過小評価しがちですが、専門的な立証活動により適正な評価を獲得することが可能です。

高齢者の労働価値の適正評価

本件では、60代のパート労働者の労働価値が適正に評価され、420万円の逸失利益が認められました。高齢者やパート労働者であっても、その労働には正当な価値があり、事故による労働能力の喪失は適正に補償されるべきです。安易に「高齢だから」「パートだから」という理由で低い評価を受け入れる必要はありません。

人身傷害保険の重要性

過失割合が20%あるケースでも、人身傷害保険の活用により100%の補償を実現できました。自転車事故では被害者側にも一定の過失が認定されることが多いため、人身傷害保険の加入は極めて重要です。特に高齢者の場合は、十分な補償額での加入を検討することをお勧めします。

自転車事故は身近な交通事故ですが、決して軽視できない重篤な後遺障害をもたらす可能性があります。特に高齢者の場合は、症状の回復が遅く、日常生活への影響も深刻になりがちです。本事例のように、適切な医学的評価と法的対応により、見落とされがちな後遺障害を発見し、適正な補償を獲得することが可能です。症状にお悩みの方は、年齢や事故の態様にかかわらず、お早めに専門家にご相談ください。